以下は、記事の抜粋です。
テロなどへの悪用が懸念されるとして、英ネイチャー誌への掲載が見合わせられていた鳥インフルエンザウイルス(H5N1)に関する東京大医科学研究所の河岡義裕教授らの論文が、5月3日付の同誌電子版に全文掲載された。
米政府の諮問機関が3月末に全面公開を認める判断を示したのを受けた措置。同誌は論文と併せて、論文を公開すべきかどうかを検討した外部専門家の評価結果も掲載。「生物兵器に利用するには分子生物学の高度な知識などが必要で、たいていのテロ集団の能力を超えている。掲載しないと、ワクチン開発が遅れる懸念があり、研究者の意欲をそぐ可能性も問題」として、掲載を支持した。
掲載された論文は、変異させたH5N1ウイルスは感染力は強いが、毒性は弱いことを動物実験で確認したとする内容で、実験に使ったウイルスが漏れ出したり、盗まれたりするのを防ぐ対策も盛り込まれた。
元論文のタイトルは、”Experimental adaptation of an influenza H5 HA confers respiratory droplet transmission to a reassortant H5 HA/H1N1 virus in ferrets”で、open論文として全文が公開されています(論文をみる)。
インフルエンザウイルスのhaemagglutinin (HA) タンパク質は宿主の受容体と結合するので、宿主範囲の決定に重要だと考えられています。研究チームは、H5N1ウイルスが動物間で伝染するために必要なHAの分子構造変化(遺伝子変異)を明らかにしました。さらに、そのような4箇所の変異を持つH5N1ウイルスのHAと、フェレットで飛沫感染するH1N1(新型、いわゆるブタ)ウイルスのHA以外の部分を組み合わせた再集合体(キメラ)ウイルスを作成しました。
このキメラH5ウイルスは、ヒト型の受容体と選択的に結合し、モデル動物のフェレットにおいて効率的に増殖しました。そして肺の障害や体重減少をおこしましたが、病原性は低く死亡は認められませんでした。
このキメラウイルスは、HA(N158D/N224K/Q226L/T318I)/CA04 という構造を持っています。即ち、H5N1由来のHA部分にN158D/N224K/Q226L/T318Iという4つの変異とCA04という2009年4月に流行したH1N1由来の構造です。
論文では、このウイルスがヒトで伝染するかどうかわからないとしています。また、このウイルスを構成する8つの遺伝子の中、7つはH1N1由来であることが強調されています。これらの変異が哺乳類での伝染に重要であることは、世界各地での鳥インフルを監視する上でもワクチンを作るためにも重要だとしています。さらに、この論文でのウイルスは、PCRでランダムな変異を導入したH5N1のHAとH1M1を無理矢理合成して作ったものですが、同様のキメラウイルスは鳥インフルとブタインフルの両方に感染しやすいブタを宿主とした場合、充分に発生し得るものだとしています。
ところで、記事では「実験に使ったウイルスが漏れ出したり、盗まれたりするのを防ぐ対策も盛り込まれた。」と書かれていますが、私には論文のどこに盛り込まれたのかわかりませんでした。
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