cGMP-Prkg1 signaling and Pde5 inhibition shelter cochlear hair cells and hearing function
以下は、論文要約の抜粋です。
騒音性難聴(Noise-induced hearing loss、NIHL)は、身体的にも社会的にも重要な地球規模の健康障害要だが、効果的な治療法はない。
心臓、肺などの臓器では、cGMPは、傷害に応答して組織を保護する反応を促進する。我々は、cGMP依存性プロテインキナーゼI型をコードする遺伝子( Prkg1 )ノックアウトマウスでNIHLを解析し、Prkg1ノックアウトマウスマウスは、野生型マウスに比べてNIHLを発症しやすく、回復も非常に難しいことを示した。
Prkg1は、内耳の感覚細胞とニューロンに発現し、その発現はcGMP特異的ホスホジエステラーゼ5(Pde5)の発現プロファイルとオーバーラップしていた。ラットとマウスにPde5阻害薬バルデナフィルを投与すると、NIHLがほぼ完全に予防され、有毛細胞とラセン神経節細胞でPrkg1依存性にポリ(ADPリボース)の増加が起こった。
これらの結果は、NIHLを保護する内在性のcGMP-Prkg1シグナル伝達経路が、ポリ(ADPリボース)ポリメラーゼを活性化させること、さらに、バルデナフィルまたはそれに近縁の薬物が、NIHL治療薬となる可能性を示唆している。
人類の約10%が難聴に悩んでおり、その約半分が騒音性難聴です。騒音性難聴は、大爆発に遭遇したり、オーディオプレーヤーで持続的に大音量の音楽を聴いたりして、有毛細胞(hair cell)とよばれる感覚細胞や神経細胞が損傷することが原因とされています。哺乳類以外の場合、有毛細胞が損傷を受けても再生することがあるそうですが、ヒトなど多くの哺乳動物では再生できません。
動物モデルを使った研究によって、有毛細胞や支持組織のデリケートな構造が破壊された結果、内耳への血流障害、有毛細胞のイオンバランス障害、代謝性ストレスの増加などがおこり、有毛細胞が不可逆的に傷害されることが騒音性難聴の原因考えられています。
有毛細胞の代謝活性は高いため、傷害された細胞はROSやRNSなどのフリーラジカルを過剰に産生し、これらのラジカルが細胞の脂質、タンパク質、DNAなどにダメージを与えた結果、細胞死が誘導されると考えられています。
RNSの1つであるNOはグアニル酸シクラーゼを活性化し、cGMP産生が増加します。Prkg1ノックアウトマウスで、騒音に対する感受性が高くなるということは、この経路が防御的に働いていることを示唆しますが、PDE5阻害薬は血管も開くので、内耳への血流を増やして効いている可能性もあります。
いずれにしても、この論文だけをみるとヒトでもED治療薬のシルデナフィル(バイアグラ®)などが騒音性難聴の治療に使えそうな気がしますが、実際にはバイアグラ®を服用すると突発性難聴などの聴覚障害の発症リスクが高くなることが知られています(記事をみる)。臨床試験(もしも行われればの話)の結果待ちです。
PDE5阻害薬はネズミのNIHLを保護する(Nature medicineより)
コメント
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勘違いだとは思いますが、タイトルの「PDE5阻害を阻害するED治療薬」は、PDE5を阻害するED治療薬ではないでしょうか?
ED治療薬はPDE5の阻害薬であり、cGMPの分解をするPDE5の働きを阻害するものですよね。
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>のびのびさん
ありがとうございます。ご指摘のとおりです。訂正いたしました。