以下は、記事の抜粋です。
ポリオ予防接種で、神奈川県が打ち出した不活化ワクチンの独自輸入方針について、小宮山厚労相が「望ましくない」と批判したのに対し、黒岩知事は10月18日の記者会見で「ほとんどの先進国は不活化ワクチンを使っており、日本はワクチン後進国だ。国がなんと言おうと、神奈川は断固実行する」と、全面対決する構えを見せた。
ウイルスを死滅させる不活化ワクチンは、日本の定期予防接種で使われている生ワクチンより安全性が高いとされるが、承認は2012年度中になる見通し。不活化ワクチンの承認を待って、生ワクチン接種を控える動きが広がっており、県内でも、今年4~6月に生ワクチンを接種した子供は、前年同期比で約21.5%減の6万2524人だった。
県は準備ができ次第、5か所の県保健福祉事務所で週1回程度、希望者に不活化ワクチンを接種する方針。
知事は、「国がやるべきことは直ちに不活化ワクチンを認めること」と強調。未承認のワクチンで健康被害が出た場合については、「きちんと誠意ある対応をしたい」と述べた。今後、不活化ワクチンの早期承認を求める要望書を国に出すという。
この問題に関しては、「ポリオの世界の今」というタイトルで、細田満和子氏が詳しく述べられています(記事をみる)。以下は、その抜粋です。
ポリオ蔓延国であるパキスタンでは、強固な免疫を付与するために経口の生ポリオ・ワクチンが使用されています。ただし先進国においては、ワクチン接種が功を奏して1970年代には強毒野生株の排除に成功しているので、生ワクチンではなく不活化ワクチンが使用されています。ちなみに韓国は既に不活化ワクチン に切り替えており、中国やインドも生ワクチンから不活化への移行中です。ところが日本では、ポリオ撲滅が宣言されているのにもかかわらず、未だに生ワクチ ンが使われています。
どう考えても不可解なのです。ある時、「日本では生ワクチンを使っている」と言ったら、とても驚かれました。「日本はまだポリオ蔓延国なの?」と。
既にポリオが撲滅されているような 国では、実際にポリオを発症してしまう危険性もある強力な生ワクチンでなくても、安全性が確立されている不活化ワクチンで十分だ、というのが世界の常識なのです。ですから、日本で生ワクチンが使われているという事実は、世界の人たちの目から見たら非常に驚くべきことなのです。
近年、生ワクチンによって、毎年100万人に2~3名程度が実際にポリオに罹患してしまうこと、それを避けるためには不活化ワクチンを接種すればいいことが、広く知られるようになってきました。しかし、不活化ワクチンを輸入して接種できる医療機関の数は十分とは言えません。また厚生労働省は、不活化ワクチンの導入は、早くても2012年度中」と答えています。すなわち今現在の時点で、日本の子どもたちに不活化ワクチンが届けられる体制は、全く整備されていないのです。
これを解消するため神奈川県知事は、利用者に費用は請求しながらも、県立病院機構と協働して、不活化ワクチンを提供できる体制を準備することを宣言した訳です。ところが、小宮山厚生労働大臣は、10月18日の閣議後の記者会見において、神奈川県の対応を「望ましいと思っていない」と批判したそうです。「国民の不安をあおって、生ワクチンの接種を控えて免疫を持たない人が増える恐れがある」と。
確かに、ポリオは未だ終わっていない世界の大問題ですから、ワクチン接種をしないでいたら大変なことが起きる、という小宮山氏の発言は大いにうなずけるものがあります。しかし、国内で野生株のポリオが撲滅されているにもかかわらず、ポリオを発症する危険性のある生ワクチンを接種すべきいうことは、理解できません。
以上から、この論争については、神奈川県知事の方が厚生労働大臣よりも正しいことは明白です。それでは、なぜ国は生ワクチンにこだわるのでしょうか?以下の記事にそのヒントがあると思います。
ポリオ「生ワクチン」か「不活性化ワクチン」か 小宮山厚生相と黒岩神奈川知事が対立
以下は、記事後半部分の抜粋です。
患者団体などはこれまでも、「国が不活化ワクチンを輸入すべきだ」と訴えてきた。同省によると、現在、国内4社が、ジフテリアなどの3種混合ワクチンに不活化ワクチンも加えた国産ワクチンを開発中で、2012年度中にも承認される見通しという。
医薬品の安全に詳しいジャーナリストは「厚労省は国内メーカーの不活化ワクチン開発が進まなかったから生ワクチンに固執してきた。2013年春導入の方針は国内メーカーの生産体制が整うのを待つためとも考えられ、製薬産業の利益を優先していると言われかねない」と指摘する。
関連記事にも書いたように、最近でこそ武田や第一三共などの大メーカーがワクチン生産に乗り出してきましたが、それまでは、化血研、阪大微生物病研究会、北里研究所、デンカ生研という4つの中小メーカーが国の庇護の下で、各種のワクチンを細々と生産してきました。これら4社はすべて厚生労働省の天下り先です。
2年前のインフル大流行の時、ワクチンが不足しましたが、マスコミも一体となった国産ワクチン愛用キャンペーンが行われ、輸入品の流通は最小限に抑えられました。国産メーカーを守る護送船団方式です。護送船団のぬるま湯の中で、ポリオの世界動勢がみえない国産メーカーが、昔ながらの生ワクチンを作り続けた結果、不活化ワクチンの生産体制の整備が遅れてしまったのだと思います。
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