Absence of effects of Sir2 overexpression on lifespan in C. elegans and Drosophila
以下は、論文要約の抜粋です。
サーチュイン(sirtuins、NAD+依存性タンパク質脱アセチル化酵素)の過剰発現が出芽酵母、線虫およびショウジョウバエで、寿命を延長することが報告されている。しかし、老化に対する遺伝子の作用に関する研究は、遺伝的背景の交絡的影響を受けやすいという欠点を持つ。
今回我々は、線虫およびショウジョウバエの両者で、老化に対してサーチュインの過剰発現が及ぼすと報告されている影響について再検討し、遺伝的背景を標準化し、適切なコントロール群を用いることにより、実際には過剰発現による寿命延長効果は認められないことを明らかにした。
線虫では、sir-2.1を高度に過剰発現する系統と野生型の交配を繰り返すと、sir-2.1を過剰発現し続けるにもかかわらず、寿命の延長が認められなくなった。
dSir2を過剰発現する系統のショウジョウバエは、これまでの報告と同様に、野生型の対照群に比較して生存期間が延長していたが、適切な遺伝子導入コントロール群との比較では、生存期間の延長は認められなかった。
これらの知見は、寿命に対する遺伝的影響の研究では、遺伝的背景および遺伝子導入による変異発生をコントロールすることが重要であることを示している。
また、ショウジョウバエの食餌制限による寿命延長効果もdSir2に依存することが報告されているが、我々は、食餌制限はdSir2とは無関係にハエの寿命を延長させることを見いだした。
今回得られた知見は、サーチュインが後生動物の寿命決定に果たす役割を否定するものではないが、これまで報告されてきた線虫およびショウジョウバエの寿命に対するサーチュインの影響が確かかどうかについて疑問を投げかけるものである。
サーチュイン(sirtuin)は、NAD+依存性タンパク質脱アセチル化酵素です。最初に酵母で見つかり、その後、ハエ、ネズミ、ヒトなどの生物にもあることがわかりました。
初期の論文では、サーチュインの過剰発現でショウジョウバエの寿命は30%向上、線虫の寿命は50%増加したと報告されました。動物実験でも、サーチュイン遺伝子の働きを強めることによって、寿命が延びるという報告が続きました。
ブドウの果皮や落花生の種皮に含まれるポリフェノールの一種のレスベラトロール(resveratrol)がサーチュインを活性化し、寿命を延ばすという情報が広く流布され、レスベラトロールを含むサプリメントも市販されています。NHKも特集番組でサーチュインを宣伝しました。研究でも、ビジネスでも「サーチュイン・バブル」状態です。
Natureがネガティブな結果を掲載するのは極めて稀だと思います。流行に乗ってサーチュイン業界に参入した研究者らにとっては嫌な論文かもしれませんが、この業界にもまだ自浄作用が残っているところを見せた(?)チャレンジだと思います。ちなみに、酵母の寿命延長効果が怪しいという総説は既にあります(論文を見る)。
研究者らは論文の最後で、レスベラトロールはdSir2のヒストン脱アセチル化酵素活性を活性化しなかったので、レスベラトロールに寿命延長効果があったとしてもそれはdSir2を介していないだろうと書いています。
「レスベラトロールのアンチエイジング作用 」を説明する図(OTAのサイトより)
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