老化した全身環境はニューロン新生を抑制し認知機能を低下させる―身体を若く保つと脳も元気?

The ageing systemic milieu negatively regulates neurogenesis and cognitive function

以下は、論文要約の抜粋です。


中枢神経系では、老化に伴って神経ステム(前駆)細胞数とニューロン新生が急激に低下し、それに伴って認知機能の障害が起こる。興味深いことに、このような認知障害はエクササイズ(運動)などの全身的刺激によって改善できる。

今回、齢の異なるマウスを並体結合することで、循環血液中に存在する複数の因子によって、成体のニューロン新生が齢依存的に抑制または促進されることを示す。

若齢マウスを老齢マウスの循環血液環境や血漿に曝露すると、シナプス可塑性が低下し、恐怖条件付けや空間学習と記憶の障害が起こった。我々は、このようなニューロン新生低下と相関して血中濃度が変化する物質として、CCL11(エオタキシン)を含むケモカイン類を同定した。これらの物質は、ヒトの健常高齢者の血中や脳脊髄液中でも濃度が上昇している。

さらに、若齢マウスにおいて末梢CCL11ケモカイン濃度を上げると、ニューロン新生が低下し、学習と記憶障害が起きた。

以上の結果を総合すると、老化で認められるニューロン新生と認知機能の低下の一部は、血中因子の変化に起因する可能性がある。


老齢動物と若齢動物の並体結合(parabiosis)というのは、かなり以前から行われていた手法のようで、ラットの場合には1957年の論文があります。マウスの場合、血液系の幹細胞が骨髄だけではなく、全身の循環系にも存在していることの証明などに用いられてきました(論文をみる)。

具体的には、2匹のマウスの腹腔を外科手術で連結するようです。上記要約には、老齢マウスと結合すると、若いマウスのニューロン新生が低下して、学習と記憶が障害されたことだけが書かれており、老齢マウスがどうなったかについては書かれていません。論文を読むと、若齢マウスと結合した老齢マウスのニューロン新生は少し増加したと書かれていますが、学習と記憶が向上したとは書かれていません。しかし、Natureの”NEWS & VIEWS“によると、この程度のことでもジョギングする人々には十分朗報のようです。

また、若いマウスでCCL11ケモカインを増やすと、ニューロン新生や認知が低下することは書かれていますが、老齢マウスでCCL11を減らしてこれらが改善したとは書かれていませんし、CCL11の作用メカニズムも不明です。メカニスティックな部分は極めて甘い論文だと思いました。おそらく、話題性が評価されたのでしょう。

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