先日、学位授与式があり、TSさんが久しぶりに研究室を訪ねてくれました。TSさんは、大学の歯学部を出てポスドクをしている時に、顎骨骨幹異形成症 (OMIM166260, Gnathodiaphyseal dysplasia)の原因遺伝子GDD1をポジショナル・クローニングしました。その後、我々の医学部に学士入学して、2年前に卒業し、現在は研修医です。
いろいろ話をする中で、彼の見つけたGDD1が、今はアノクタミン5(anoctamin 5、ANO5)とよばれ、活性型変異で顎骨骨幹異形成症を、劣性変異で肢帯型筋ジストロフィー(limb girdle muscular dystrophy)を発症することが最近わかったという話を聞きました。そこで、アノクタミンについて調べてみました。以下は、関連論文の抜粋です。
「アノクタミン(anoctamin)」とは、陰イオン(ANion)選択的で、8(OCT)つの細胞膜貫通セグメントをもつ膜タンパク質であることから名づけられたが、最初からこのような性質が明らかだったわけではない。
このファミリーで最初に発見されたのは、GDD1(現在はANO5)とよばれるもので、顎骨骨幹異形成症の原因遺伝子として同定された。
ANO1は、TMEM16A、TAOS2 (tumour amplified and overexpressed sequence)、ORAOV2 (oral cancer overexpressed)、DOG-1 (discovered on GIST-1)などの多くの名前を持っており、その名のように特定のがんで過剰発現している。ANO7 (D-TMPP、NGEPともよばれる)は前立腺に特異的に発現しており、多くの前立腺がんで過剰発現している。
2008年に発表された複数の論文で、ANO1(当時はTMEM16A)がカルシウムによって活性化されるクロライドイオン・チャネル(Ca2+-activated Cl- channels (CaCCs))であることが示された。この発見によって、これらの一群の膜タンパク質ファミリーがCaCCであることが示唆され、バラバラに名づけられていたこれらのタンパク質は、その機能をあらわす「アノクタミン」という名の下に整理された。
アノクタミン(ANO)ファミリータンパク質は、酵母からヒトまでの真核細胞に保存されており、哺乳動物では10の異なる遺伝子が同定されている。
TSさんは、近々研修病院から派遣されて東北・関東大地震の医療支援のために岩手県に5日間行くと言っていました。また、後期研修は循環器内科をする予定だそうです。しかし、その後は研究に戻って「一発当てたい」と言っていました。
何十年も前ですが、私は臨床ではなく基礎研究を選びました。論文を数多く書くためでも、巨額の研究費を獲得するためでも、高いポジションを得るためでも、多くの弟子を育てるためでもありませんでした。
アノクタミンという新しい概念を学び、忘れかけていた初心を思い出させてもらったTSさんの訪問でした。
関連論文
Anoctamin/TMEM16 family members are Ca2+-activated Cl- channels
新たな骨代謝制御因子としてのGDD1
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