以下は、記事の抜粋です。
再発または手術不能な乳がんに対するエーザイの抗がん剤「ハラヴェン」(一般名エリブリンメシル酸塩)について、厚生労働省の医薬品第2部会は1月20日、製造販売を承認してよいとの意見をまとめた。上部の薬事分科会への報告を経て正式に承認される。
エーザイによると、臨床試験で既存の治療法より患者の生存期間を2.5ヶ月延長。2~5分で注射でき外来治療にも向いているという。
この薬につながる物質「ハリコンドリンB」は1985年、故平田義正名古屋大名誉教授らがクロイソカイメンから抽出し構造を特定。92年に米ハーバード大の岸義人名誉教授が人工合成に成功した後、エーザイが有効性の核となる部分を突き止め、薬として生産するための複雑な工程を確立した。
エリブリン(eribulin mesylate, E7389)は、微小管に働く薬物で、上記のようにハリコンドリンB (halichondrin B)の合成アナログです。ハリコンドリンBはHalichondria okadai(クロイソカイメン)から抽出された物質です。直接関係ないですが、2A型のタンパク質脱リン酸化酵素(protein phosphatase type 2A)の阻害薬として知られているオカダ酸(okadaic acid)もクロイソカイメン由来です。おそらく、カイメンはいろいろな海洋細菌をトラップしてその毒で自分の身を守っているのでしょう。
さて、エリブリンは微小管に働いて紡錘体形成を阻害します。その結果、G2-M期で細胞周期が停止し、がん細胞はアポトーシスをおこします。ビンブラスチンやパクリタキセルなどの薬物も微小管に作用しますが、これらの薬物が微小管の脱重合を阻害するのと異なり、エリブリンは微小管の重合を阻害します(関連論文)。
また、エリブリンがtubulinに結合する部位は、他の抗がん薬の結合部位とは異なります。そのため、β-tubulinの変異によってパクリタキセル耐性をしめすがん細胞にも有効だとされています。
各種がん細胞の異常増殖メカニズムが明らかにされ、それぞれのメカニズムに対応する分子標的薬が次々と開発されています。しかし、多くのがん治療では、異なるメカニズムのアポトーシス誘導薬を組み合わせる化学療法が主流です。エリブリンが化学療法薬の選択肢を大きく広げる薬物であることを祈ります。
関連論文
The primary antimitotic mechanism of action of the synthetic halichondrin E7389 is suppression of microtubule growth
クロイソカイメン(神戸塩屋漁港のテトラポットについていたそうです、dinop.comより)
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