きちんとリスクを取る:マイナス面もあろうが、多くの若手科学者がリスクの高い研究にもう少し着目すべき、とAbraham Loeb氏は言う
以下は、記事の抜粋です。
今の若手天体物理学者は保守的だ。すでに広く展開されている主流のアイデアに時間を費やしている。これは憂慮すべきことである。もっと良い研究者への道があるはずだ。
同僚からの心理的圧力や労働市場の見通しから、無難に事を進めようという傾向が加速している。それは科学者がますます大勢のグループでプロジェクトを推進するケースが増えており、予測可能な目標を追求しているからである。
宇宙の多くが依然として謎に包まれていることを考えると、こうして科学が守りに入っていく傾向には特に不安を感じる。
若手研究者は特にこうした傾向に逆らい、革新的な研究を推し進めるべきである。職業上、チャンスの扉が開いている時間は短い。将来の天体物理学をはじめとするさまざまな分野が繁栄するためには、適度なリスクを取ることが若手科学者のためにもなる。
天体物理学の研究テーマには、安全なものとリスキーなものとがある。私はこれらを「社債」(低リスク)、「株式」(中リスク)、「ベンチャーキャピタル(VC)」(高リスク)の3つに分けて考えるようにしている。駆け出しの研究者にとってベストなやり方は、自分の研究活動を多角化して、リスキーだが大きな見返りが期待できる創造的なプロジェクトに常に一定のエネルギーを注げるようにしておくことだろう。
天体物理学のポスドクが研究時間を振り分ける場合、80%を社債に、15%を株式に、そして5%をVCに、といったところが平均的な戦略となるだろうか。だが私は、個々の状況を踏まえた上で、50%を社債に、30%を株式に、そして20%をVCに振り分けることをお薦めしたい。
もし100万の非主流のアイデアのうち、たった1つでも実をつければ、それは我々のリアリティを書き換え、努力は十分に報われることになる。研究に対するエネルギーをバランスよく振り分けてさえいれば、高リスクの研究が若い研究者を破滅させることはないだろう。
他人のあまり通わぬ道を行く人たちよ、勇気を持て! つまるところ、こうした道を行くほかに、科学をやる意味などあるだろうか。
上の記事は、1月24日に配信された「NPG ネイチャーアジア・パシフィック『求人・会議案内情報』」に載っていました。元記事は昨年の9月23日に掲載されたようですが、その時にはまったく気づきませんでした。
Abraham Loeb氏はハーバード大学理論・計算研究所所長で専門は天体物理学のようで、専門は違いますが、私は氏のご意見にまったく同感です。
日本の場合、1)自由に使える校費がほとんどなくなり、外部資金を獲得するためには研究の成果が予見されるテーマを選ぶ必要がある、2)若手のポジションが不足し、その多くが不安定、3)大学・学会での老人支配の拡大、などなどの理由から、アメリカよりも状況は厳しいと思われます。
このような状況を改善するため、大学は単に各省庁が用意する外部資金の獲得に奔走するのではなく、自由に使える研究資金の確保に努め、比較的安定した若手のPIポジションを創設する必要があると思います。「研究者のためのタイガーマスク」が登場してくれると良いのですが、、、
関連記事で紹介したように、杉原さんは「本当にやりたいテーマ、短期間で結果の出そうなテーマ、時間に比例して成果が蓄積できそうなテーマなどを並列にこなすことによって、リスク分散をする」、柳田さんは「研究には、漁業、農業、林業の三側面があり、どれが欠けても駄目」と書かれています。
Abraham Loeb氏の「社債」「株式」「ベンチャーキャピタル」という例えは、杉原さんや柳田さんのと少し違いますが、より現代に即したやり方かもしれません。私は能力や努力だけではなく、このような「tips(ヒント、コツ)」も大切だと考えています。自分の気に入ったtipsを糧にして、若手研究者が元気で活躍することを祈っています。
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