鳥インフルエンザ:拡大防ぐ鶏、遺伝子組み換えで開発--英大など
以下は、記事の抜粋です。
英ケンブリッジ大などの研究グループが、鳥インフルエンザ(H5N1型)に感染してもウイルスの増殖を抑え、感染を拡大させない鶏を遺伝子組み換え技術を使って開発したと、1月14日付サイエンス誌に発表した。
遺伝子組み換え鶏は食べた場合の安全性が確認されていないため、直ちに実用化されるわけではないが、ワクチンを利用するのに比べて、効果的に感染拡大を防げる可能性があるという。
研究グループは、ウイルスが体内で増殖するのを邪魔する遺伝子を鶏に導入。できた組み換え鶏10羽にウイルスを感染させ、通常の鶏10羽と同じ部屋に入れた結果、組み換え鶏はすべて死んだが、周りの鶏は感染しなかった。ウイルスが体外に放出されるほどは増えなかったとみられる。同グループはさらに研究を進め、ウイルスに抵抗力のある鶏を開発したいとしている。
元論文のタイトルは、”Suppression of Avian Influenza Transmission in Genetically Modified Chickens”です(論文をみる)。
インフルエンザウイルスは、宿主の細胞に感染すると、その中で自らの遺伝子を複製し、タンパク質を合成します。これらの遺伝子やタンパク質から新しくウイルスが組み立てられ、細胞から外へ飛び出して次々に感染します。
インフルエンザウイルスには10個のタンパク質があります。その1つがRNAポリメラーゼです。これは、ウイルス遺伝子(マイナス鎖vRNA)を鋳型としてウイルスの遺伝子の複製を行う重要なタンパク質です。
「ウイルスが体内で増殖するのを邪魔する遺伝子」というのは、このRNAポリメラーゼが自分のウイルス遺伝子と間違えて結合するような「デコイ」とよばれるヘアピン型のRNAを作るようにデザインされたDNAです。このDNAが導入されたトランスジェニック・ニワトリの細胞でデコイRNAが発現すると、インフルエンザウイルスのRNAポリメラーゼはデコイと結合し、自分の遺伝子を複製できないという仕組みです。
このデコイRNAは、ウイルスのもつ8個のRNA遺伝子のすべてのRNAポリメラーゼ結合部位と拮抗できるので、ウイルスがこのトランスジェニック・ニワトリに耐性を持つためには、RNAポリメラーゼを変えるだけでなく、8つの遺伝子すべてを変える必要があります。このため、耐性ウイルスが生じる恐れは非常に低いそうです。
このデコイRNAの発現は極めて低レベルであるため、ニワトリ自身、食べたヒト、自然環境などに対して安全だそうです。また、通常の改良品種と同じように、ウイルス伝播耐性は遺伝するので、その系統維持は簡単だそうです。さらに、このデコイRNAをトランスジェニックに導入する方法は、ニワトリだけではなくブタにも応用可能です。安全性が事実であれば遺伝子組換えサーモンよりも早く普及しそうです。
「トリインフル耐性遺伝子組換えニワトリ」を報じるニュース
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