Telomerase reactivation reverses tissue degeneration in aged telomerase-deficient mice
以下は、論文要旨の抜粋です。
老化による臓器の機能低下をくい止め、若返らせる方法に対する興味は世界人口の高齢化とともに増え続けている。
テロメラーゼ欠損マウスは、広範なDNA損傷による障害を細胞レベルと臓器レベルで研究する良いモデル系である。テロメアの消失とアンキャップ化は、進行性の組織変性、幹細胞枯渇、臓器システム障害、創傷治癒反応障害などをひきおこす。
我々は本研究で、重篤なテロメア機能障害によるマウス成獣の多臓器変性が内因性テロメラーゼ活性の再活性化によって、変性の進行がとめられるあるいは逆転させられるかを調べた。具体的には、4-hydroxytamoxifen (4-OHT)によって誘導されるtelomerase reverse transcriptase-oestrogen receptor (TERT-ER)を内因性TERTプロモーター下で発現するノックインマウスを作成した。
ホモTERT-ERマウスは、短い機能不全のテロメアを持ち、加齢とともにDNA損傷の増加や古典的な臓器変性を示した。このようなTERT-ERマウスの成獣でテロメラーゼ活性を再活性化すると、テロメアが伸張し、DNA損傷が減少し、精巣、脾臓、小腸などでの変性が減少した。
さらに、神経前駆細胞の増殖が回復し、神経変性も逆転された。これに伴って、嗅覚やその関連行動の低下も改善を示した。これらの結果は、テロメア機能の再活性化によって、加齢による臓器障害や疾患が改善できることを示唆している。
各染色体の末端にはテロメアとよばれるキャップのような構造があります。細胞が分裂するたびにテロメアは短くなり、テロメアが働かなくなると細胞は死ぬか分裂を止めてしまいます。テロメラーゼは、2009年にノーベル賞を受賞したElizabeth Blackburnさんが発見した、テロメアが短くなるのを止める酵素です。
ノックインしたテロメラーゼとエストロゲン受容体との融合タンパク質は、そのままではミスフォールドして活性を持っていないのですが、4-hydroxytamoxifen (4-OHT)を投与すると4-OHTとエストロゲン受容体とが結合し、テロメラーゼが解放されて活性をもつようになるそうです。先日紹介したp53の再活性化の話と同じです。哺乳動物でノックインした遺伝子をオン・オフする一般的な方法のようです。
この話のすごいのは、テロメラーゼ活性を再活性化するとマウスの「老化」が止まるだけではなく、「若返る」ところです。テロメラーゼ欠損マウスは早く老化し、嗅覚が衰え、脳が萎縮し、不妊になるのですが、再活性化すると、嗅覚やそれに伴う行動、そして生殖能力までが復活しました。
問題は、これがヒトにもあてはまるかどうかですが、いくつか問題が指摘されています。1.マウスは一生テロメラーゼを作り続けるが、ヒトは成長とともに作らなくなる。2.テロメラーゼの活性化はがん化を誘導する恐れがある。実際、大半のがん細胞ではテロメラーゼが活性化されている。3.短期間の「若返り」と寿命の延長とは別の問題である。などなどです。
がん化の問題については、この研究に用いられたマウスは一匹もがんにならなかったそうですので、大丈夫かもしれません。ヒトの老化の原因はテロメア短縮だけではないので、すぐに老化が治療できるようになるということではないかもしれませんが、非常におもしろい仕事だと思います。
若返ったマウスたち(Brisbane Timesより)
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