以下は、記事の抜粋です。
ピッツバーグ大学心理学部のKirk Erickson准教授らは、299人の被験者を対象とした13年間に及ぶ調査で、身体的活動と灰白質の体積や認識機能障害の関係について研究しました。
299人の被験者は調査開始時に認知機能障害のない健康な成人(平均年齢78歳)で、身体活動量は「1週間に何ブロック歩くか」という形で報告され、調査開始時と9年後に高解像度の脳スキャンで灰白質の量を比較し、さらに4年後(調査開始から13年後)に認識機能障害の医学的な診断を受けました。被験者たちが1週間に歩く距離は0ブロックから300ブロックの範囲(平均56.3ブロック、標準偏差69.7)だったとのこと。
その結果、歩く距離によって9年後の灰白質の量に差がつくことが明らかになりました。具体的には、週に72ブロック(約6マイル~9マイル:約9.7km~14.5km)以上歩くグループはそれ未満のグループと比べ9年後の前頭部・後頭部・内側嗅領・海馬領域での灰白質の量が多かったとのこと。ただし、歩く距離が長いほど灰白質が多くなるというわけではなく、72ブロックでも300ブロックでも有意な差は見られなかったそうです。13年後に認知機能障害を発症している割合も、よく歩くグループでは歩かないグループと比べ1/2だったそうです。
元論文のタイトルは、”Physical activity predicts gray matter volume in late adulthood”です(論文要約をみる)。
ランダム化試験ではないので、歩く量が灰白質量に影響することはまだ断言できないと思いますが、かなり良く計画された臨床試験だと思います。
本試験は、より大規模の臨床試験であるCardiovascular Health Study Cognition Study (CHS-CS)の一部です(CHSについて)。
1989–1990年の試験準備開始時に、1479名の運動量(どれだけ歩くか)が自己申告により調べられました。2-3年後にMRIを受けたのは、初めに登録された者のうちペースメーカー着用者などを除く924名でした。その後もう一度MRIを受けて、1998–1999年に認知機能正常と判断された299名が今回の対象者です(女性182名)。脳梗塞やパーキンソン病の患者は除外されています。
試験準備開始時は65歳以上が参加条件で、調査対象者は1479名でしたが、9年後の試験開始時点では対象者は299名に減少し、平均年齢は78歳でした。この試験開始時点では、299名の対象者全員の認知機能は正常だったのですが、4年後には、116名(約4割)が認知症(dementia、52名)あるいは軽度認知機能障害(mild cognitive impairment, MCI、64名)と診断されています。
歩く量が自己申告だったり、灰白質量が認知症とかならずしも相関しない可能性などいくつかの問題はありますが、興味深い結果だと思います。
記事では、「週に6~9マイルというと1日に約1.4km~2km程度、毎日の通勤通学などで達成している人も多い距離かと思われます。家から駅までや駅から会社までが近いという人は、帰り道にちょっと遠回りしたり、一駅手前で降りてみるなどすると無理なく歩ける距離なのではないでしょうか。」と書いていますが、本臨床試験の対象者は65歳以上です。その年齢でこの距離を歩くのはけっこう大変だと思います。
アメリカは車社会ですので、週72ブロック以上歩く人は意識的に散歩などをしている人でしょう。いずれにしても、アメリカでも日本でも、ボケないで生きるためにはかなりの努力が必要であることに変わりはないと思います。
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