ホスファチジン酸は、低グルコース状態と遺伝子発現をリンクするpHセンサー

Phosphatidic Acid Is a pH Biosensor That Links Membrane Biogenesis to Metabolism

以下は、論文の要約です。


タンパク質による脂質の認識は、多くのシグナル伝達系において、タンパク質をターゲティングし活性化するために重要であるが、その認識や制御の分子メカニズムについては、ほどんど知られていなかった。

研究者らは、普遍的なシグナル脂質であるホスファチジン酸(PA)に対するOpi1というタンパク質の結合が細胞内のpHとリン酸残基のプロトン化状態に依存することを発見した。

酵母では、グルコース飢餓に反応して生じる細胞内pHの急激な減少が、PAとOpi1転写抑制因子の結合親和性を低下させた。その結果、Opi1がERから核に移行して、リン脂質代謝関連遺伝子の発現を抑制した。このようにして、栄養状態によって膜生合成系が制御されている。


酵母細胞では、リン脂質代謝はOpi1という転写抑制因子によって制御されています。Opi1は、ホスファチジン酸(PA)とScs2という蛋白に結合することでERに局在しています。イノシトールを細胞に添加すると、PAが急速に消失しOpi1はERから核へ移行します。核移行したOpi1は、多くのリン脂質代謝関連遺伝子の発現を抑制します。

研究者らは、GFP-Opi1の局在を調べ、pma1-007というプロトンポンプの変異株やebselenというPma1阻害薬処理で、GFP-Opi1が核に集積することを見出しました。このことから、Opi1が細胞内pHセンサーとして機能し、情報を核に伝えて遺伝子発現を調節することが示唆されました。

Opi1にはQ2と呼ばれる塩基性アミノ酸に富むドメインがあります。研究者らは、GFP-Q2を作製し、GFP-Q2が細胞のPAの主な蓄積部位である細胞膜に局在すること、細胞内pHを下げるebselen処理によってGFP-Q2が細胞膜から解離することを示しました。

さらに、Q2がPAのリン酸残基に結合し、この結合が細胞内のpHによって制御されることを示しました。具体的には、Opi1はプロトンを奪われたPAに対して親和性が強い、即ち、細胞内pHが高い時にPAと良く結合することがわかりました。

生理的に細胞内pHを変化させるのは、グルコースだと思われます。実際、細胞をグルコース飢餓状態に置くと、細胞内pHは低下し、GFP-Opi1は核移行しました。細胞内PA量には変化は認められませんでした。グルコース飢餓になるとReg1/Glc7というタンパク質脱リン酸化酵素を介してPma1が抑制され、その結果細胞内pHが低下すると考えられています。

本研究は、これまで不明だったPAとOpi1の細胞内pHセンサーとしての役割を明らかにし、低グルコースシグナルの伝達にもこのようなメカニズムが関与していることを明らかにした優れた研究だと思います。

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