以下は、記事の抜粋です。
エール大学の研究者らは、麻薬のケタミンを即効性のある抗うつ薬に開発することを考えている。ケタミンが他の抗うつ薬と比べてなぜ速く効くのか、そしてどういうメカニズムによって脳に働くのかが、エール大のRonald DumanとGeorge Aghajanianらのグループによって明らかにされ、サイエンス誌に掲載された。
SSRIなどの通常の抗うつ薬は、患者が効果を実感できるまでに数週間かかる。一方、ケタミンは数時間で効きはじめ、その効果は長ければ10日ぐらい持続する。Duman氏は、即効性に加えて、通常の抗うつ薬に抵抗性のある患者の70%に対して有効であることもケタミンのメリットだと付け加える。
ケタミンは、1960年代の初期に開発され、麻酔薬として使用された。ベトナム戦争時には、兵士に対してよく用いられた。1990年代には、「スペシャルK」という名でパーティーで乱用されるようになり、短時間の精神病的症状をおこすことが知られている。
ケタミンは、臨床的には静注による投与しかできないので、現在は用途が限られている。通常は、他の治療が効かない重傷のうつ病患者に対して低用量が処方される。しかし、本研究によってその作用メカニズムが明らかになったので、Duman氏はより安全にかつより便利に服用できるケタミン製剤ができると考えている。錠剤を開発するのが最終目標だそうだ。
元論文のタイトルは、”mTOR-Dependent Synapse Formation Underlies the Rapid Antidepressant Effects of NMDA Antagonists.”です(論文をみる)。
この論文のポイントは、ケタミンがmTORシグナル伝達経路を活性化することの発見です。このmTORシグナルの上昇が、ラットの前頭前皮質のシナプスのシグナルタンパク質を増加させると同時に、神経細胞の新しい棘突起の数と機能を増加させると報告しています。
これらのケタミンの作用は、ストレスとは全く反対の作用だと書いています。また、mTORシグナル経路を阻害すると、ケタミンの抗うつ作用がなくなることも示しています。
実際の論文をみると、ケタミンがmTORシグナルを活性化するというデータはすべてイムノブロットによるものです。また、ケタミンの作用はすべてラパマイシンで阻害されています。何となくですが、話ができすぎている印象を受けました。
ケタミンは他の麻酔薬と異なり、循環抑制や呼吸抑制がないこと、筋肉注射が可能であることからヒトにも動物にも良く用いられています。
私は、ケタミンの抗うつ作用はカテコラミン遊離作用によるものだと思っていました。この論文を読んでも、ケタミンの作用がmTORを介しているとはなかなか思えません。作用メカニズムは別として、この論文をきっかけにケタミンのうつ病に対する即効性が注目され、ケタミン誘導体であってもなくても、通常の抗うつ薬が効き始めるまでの間に有効な即効性のある安全で使いやすい抗うつ薬が開発されることを期待したいと思います。
同じ研究を報道した日本語の記事もありました。
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