血液1滴でがん13種99%検出…東芝、20年から実証試験
以下は、記事の抜粋です。
東芝は11月25日、1滴の血液から13種類のがんいずれかの有無を99%の精度で検出できる技術を開発し、2020年から実証試験を始めると発表した。東京医科大や国立がん研究センターとの共同研究に基づく成果で、数年以内の実用化を目指す。
血液中に分泌される「マイクロRNA」と呼ばれる分子の種類や濃度を検査し、乳がんや膵臓がん、食道がん、胃がん、大腸がんなど13種のがんについて、ごく初期の段階でも発見できる。実用化すれば、生存率が高まることが期待される。
東芝はRNAを短時間で簡便に検出できるチップや小型機器の開発に成功した。2時間以内に結果が判明するという。
東芝が開発した13種のがんを99%検出できる検査機器
「血液1滴でがん13種99%検出」というあまりにセンセーショナルなタイトルだったので、そのエビデンスを少し調べてみました。技術の詳細は12月3~8日に福岡で開催される『第42回日本分子生物学会年会』にて発表される予定のようですが(記事をみる)、国立がん研究センターのプレスリリースに以下のような記事がありました。抜粋を紹介します。
食道がんを早期から検出できる血液中マイクロRNAの組み合わせ診断モデル作成
本研究では、血液検体を用いて、食道がんを有する方566名と有さない方4965名の血液(血清)中のマイクロRNAを網羅的に解析し、食道がんで有意に変化する複数のマイクロRNAを同定し、そのうち6種のマイクロRNAを組み合わせることで食道がんを早期から検出可能であることを確認しました。
本研究は、13種のがんについて血液による診断システム開発を産官学で目指す「体液中マイクロRNA測定技術基盤開発プロジェクト(2019年3月終了)」(国立研究開発法人日本医療研究開発機構 次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業)の研究成果のひとつで、今後、プロジェクト参加企業による実用化と、前向き臨床研究での検証を経て新たな検査法としての確立が期待されます。また、本研究成果は米国科学誌「JAMA Network Open」に5月24日掲載されました(論文をみる)。
解析対象例を探索群と検証群の2つに分け、その精度を検証した結果、同モデルは検証群の食道がん患者全体の96%を正しくがんであると判別することができ(図A、B)、診断精度の極めて高い(感度96%、特異度98%)診断モデルの作成に成功したことを確認しました。
ステージ別の検証においては、ステージ0、ステージI、ステージII、ステージIII、ステージIVの患者群それぞれを89%、95%、98%、97%、100%の感度で陽性と診断できました(図C)。
国立がん研究センターの発表とその根拠になった論文では、「血液1滴でがん13種99%検出」ではなく、食道がんについてのみ書かれていて、そのステージによって、検出感度が良くなると書かれています。おそらく、東芝のものも基本的な技術は技術は同じなのでステージが早いもの(ステージ0~I)については5~10%のエラーはあると思われます。
ステージ0はがんが粘膜内に留まっているもの、ステージIは粘膜下層に留まっているものです。これらは現在の診療では、内視鏡検査で発見されることが多いです(説明をみる)。また、食道がんは、60~70歳代に好発(全体の約70%)することが分かっています。
採血でみつかるのは内視鏡よりも楽ですが、東芝の宣伝の99%の正確性でわかるなら良いとしても、5~10%のエラーがあるなら、この方法が優位だとは言い切れないと思います。採血でどれかのがんの疑いがあると言われ、検査されまくった後で実はがんはなかったということもあるかもしれません。また、下の図で書かれているように、がんになるリスクは年齢とともに高くなり、一生のうちにがんと診断されるヒトの割合は約50%です。これは現在の診断技術での結果ですので、高齢者に対して上の記事のような「感度が良い」機械を使えば、ほぼ全員に隠れていたがんがみつかる可能性があります。
この機械がどのように臨床応用されるのか?応用された場合、日本の国家財政にどのような影響があるのか?とても興味深いと思います。
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