Everolimus-Eluting versus Paclitaxel-Eluting Stents in Coronary Artery Disease
以下は、論文要約の抜粋です。
以前の研究によって、エベロリムス溶出ステントがパクリタキセル溶出ステントよりも血管造影所見において優れていることは確立されていた。しかし、臨床エンドポイント(評価項目)における優位性を多数の症例で検討した報告はなかった。
方法
全米66施設の3687名の患者を、エベロリムス溶出ステント群とパクリタキセル溶出ステント群にランダムに割りふった。予後を悪化させる可能性があるルーチンの血管造影によるフォローアップは行わなかった。第1エンドポイントは、1年間に発生した(心臓死、標的血管における心筋梗塞、虚血による標的障害部位の血管再開通術によって定義された)標的病変不全の総合発生率である。
結果と結論
1年後の標的病変不全発生率は、パクリタキセル群(6.8%)に比べエベロリムス(4.2%)群で低かった。一方、糖尿病合併例では両群間に有意差はなかった。
現在、狭心症や心筋梗塞の患者にはステントを使用したカテーテル治療が一般的に行われています。
ステントとは、ステンレスなどの金属で作られた医療器具で、バルーンで拡張した冠動脈の狭窄部位に留置して、血管を内腔から保持するためのものです。しかし、従来のステント治療では20%~40%の頻度で再狭窄が起こり、ステント治療後に再狭窄をきたす症例の予後は不良でした。
そこで登場したのが薬剤溶出ステント(drug-eluting stent、DES)です。ステントにポリマーをコーティングし、再狭窄を防止する薬剤をポリマーから徐々に放出させる仕組みです。ナノテクです。
現在わが国では、シロリムス(sirolimus)、パクリタキセル(paclitaxel)、ゾタロリムス(zotarolimus)をコーティングしたステントが使用可能です。
本論文は、シロリムスの方がパクリタキセルよりも優れているという話ですが、その作用メカニズムについて、少し考えてみました。
パクリタキセルは、微小管蛋白重合を促進することにより微小管の安定化を引き起こし、微小管の脱重合を起こりにくくします。その結果、細胞増殖を抑制します。ステントに用いた場合、血管平滑筋細胞や内皮細胞などの増殖を抑制すると思います。しかし、多くの細胞増殖抑制作用を持つ薬物の中から、パクリタキセルがステント溶出薬として選ばれた理由はわかりません。
一方、シクロリムスは、ラパマイシンのアナログで(関連記事参照)、mTORがつくるTORC1複合体の阻害薬です。細胞増殖抑制作用も免疫抑制作用ももっており、抗がん薬(アフィニトール)としても、免疫抑制薬(エベロリムス)としても使われています。
「ステントも異物である」と考えれば、免疫抑制作用かもしれません。より強力な免疫抑制薬であるタクロリムスを使ったステントも開発されています。しかし、複数の論文を読んだところ、どうもタクロリムス溶出ステントの成績は、あまり良くないようです(論文要約をみる)。おそらく、免疫抑制作用よりも細胞増殖抑制作用が重要だと思います。
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ラパマイシン(rapamycin、シロリムス)とラパログ(rapalogs)
薬剤溶出ステントのイメージ図
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