以下は、記事の抜粋です。
細胞内の特定の酵素が脳神経細胞を死滅させるグルタミン酸の毒性を抑えることが、秋田大、群馬大、神戸大のチームによる研究で分かり、5月12日付のネイチャー電子版に発表した。脳卒中やパーキンソン病など神経疾患への治療で応用が期待されるという。
この酵素は、人間の脳神経細胞内に含まれる「INPP4A」。グルタミン酸は、脳の正常な働きに欠かせない役割を持つ一方、脳神経細胞の死滅を引き起こす面もある。
研究チームは、INPP4Aを除いたマウスで実験すると脳神経細胞が死滅し、激しく筋肉が収縮することも確認。また、INPP4Aが欠けた脳神経細胞に、通常では細胞が死滅しない低濃度のグルタミン酸を作用させると、死滅が進んだという。
研究チームのリーダーを務めた佐々木雄彦・秋田大大学院医学系研究科教授は「グルタミン酸から脳神経細胞が守られる仕組みの一端が明らかになった。INPP4Aの働きを強めることができれば、細胞死を抑えたり、病の進行を遅らせたりする道にもつながる可能性がある」と話している。
元論文のタイトルは、”The PtdIns(3,4)P2 phosphatase INPP4A is a suppressor of excitotoxic neuronal death”です(論文をみる)。
inositol polyphosphate 4-phosphatase(INPP4)は、ホスファチジルイノシトール3,4-二リン酸(PtdIns(3,4)P2)のイノシトール環の4位のリン酸基をはずす酵素です。INPP4には、INPP4AとINPP4Bがあり、INPPBのノックアウトマウスは胎生致死となり、INPP4Aのノックアウトマウスは、上記のような表現型を示すということです。
ホスファチジルイノシトール3,4,5-三リン酸(PtdIns(3,4,5)P3)のイノシトール環の3位のリン酸基をはずす酵素PTENは、がん抑制遺伝子として良く知られていますが、脳特異的にPTENを欠損するマウスでは、神経変性はおこらないそうで、PtdIns(3,4)P2は特異的な役割をもっていそうです。
神経細胞死のメカニズムについては、INPP4Aノックアウトによって、後シナプス肥厚(PSD)におけるNMDA受容体密度が高くなるためだとしています。確かに、NMDA受容体アンタゴニストのMK801は、神経細胞死を抑制しています。一方、IP3の代謝にはまったく触れられていませんが、どうなっているのか興味があります。
ところで、「INPP4Aノックアウトマウスでは、著しい運動異常を示し、組織学的な解析の結果、大脳基底核での神経細胞死の亢進とグリオーシスが見出された。神経細胞死の亢進は、培養細胞においても確認された。」という結果は、科研の報告書をみると、少なくとも5年前にはわかっていたようです(報告書を見る)。おそらく、レビューアーに要求された”Mechanistically—“の部分に時間をとられたのだと思います。
現象だけでも十分おもしろいのに、メカニズムをしつこく問うて嫌がらせするのはやめてほしいと思うことが時々あります。
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