個人全ゲノム配列に基づく臨床アセスメント:遺伝的に心血管リスクの高い40歳男性患者のケース

Clinical assessment incorporating a personal genome

以下は論文の抜粋です。


背景
ゲノム解析のコストは急激に下がっているが、遺伝的リスクをどのようにして臨床的リスクに翻訳するかはまだはっきりしていない。我々は、患者の全ゲノム配列情報を用いて、臨床アセスメントをめざした統合的解析を行った。

方法
心血管系疾患と若年時における突然死という家族歴をもつ患者の臨床アセスメントを行った。具体的には、全ゲノム配列、冠動脈疾患のリスク予想、心因性突然死のスクリーニング、遺伝的カウンセリングを行った。

遺伝学的解析では、全ゲノム配列と臨床的リスクを統合する新しい方法を開発した。疾病リスク解析では、メンデル遺伝する病気に関連した変異、薬物代謝・応答に関与する変異、そして疾病と関連すると思われる新しい変異についての遺伝的リスクを予測することに重点をおいた。

疾病特異的変異データベースと薬理ゲノムデータベースを調べて、疾病や薬物代謝・応答との関連が明らかになっている遺伝子や変異を同定した。
これらのデータを総合して各種疾病に罹患する可能性を推測した。その他、遺伝子-環境相互作用と条件つきのリスクについても説明した。

結果
260万個のSNPと752個のコピー数変異を調べたところ、この患者では、心筋梗塞、2型糖尿病といくつかのがんになるリスクが高いことがわかった。
心因性突然死に関連する3つの稀な変異、TMEM43、DSP、MYBPC3を発見した。LPAにおける変異は、冠動脈疾患の家族歴と良く一致していた。

この患者は、CYP2C19にヘテロなヌル変異をもっており、クロピドクレルが効きにくいと思われる。また、スタチンに良く反応すると思われる変異や、ワルファリンが効きすぎると思われるCYP4F2とVKORC1の変異も認められた。

解釈
まだまだ多くの課題が残っているが、我々の結果は、全ゲノム配列決定が個々の患者にとって有益で臨床的に重要な情報を提供できる可能性を示唆している。


この患者は、40歳男性、身長180cm、体重86kg、BMI26.5、血圧128/80で、通常の臨床検査では、心電図や心エコー図などは正常、生化学検査で正常では75以下のlipoprotein(a)(nmol/L)が285と高値を示すことだけが異常所見でした。

このlipoproteinの異常は、配列決定で明らかになったLPAの変異と一致しています。LPAの変異も心血管系疾患に関連するTMEM43、DSP、MYBPC3の変異も遺伝子チップでは発見できません。これらのような稀な変異を発見できることは、配列決定が遺伝子チップよりも圧倒的に優れている点です。

現在のアメリカの臨床ガイドラインでは、この患者はLDL値が低いので、脂質を低下する治療を受けるのに十分な冠動脈疾患リスクがないと判断されます。

しかし、全ゲノム解析によって心筋症・不整脈と関連する変異とスタチンに良く反応する変異の存在がわかったので、少量のスタチンを予防的に服用することが考えられました。また、LPAリスクを軽減するアスピリンを予防的に服用することも考えられました。

欧米ではクロピドクレル(商品名、プラビックス)が心筋梗塞予防に用いられていますが、この患者の場合は、CYP2C19変異をもつのでこの薬が活性代謝産物に変換されにくく、通常よりも多量の薬物を服用するか、他の薬物を考える必要があります。逆にワルファリンは、少量からスタートすべきであることもわかりました。

また、家族歴からはわからないけれども、ヘモクロマトーシスや副甲状腺腫瘍のリスクがあることがゲノム解析でわかりました。

以上のように、この論文では個々の患者の全ゲノム情報を把握することで、より良い臨床アセスメントが可能であるとしています。

全ゲノム配列決定とそれに基づく臨床アセスメントの費用は、どのくらいならビジネスになるのでしょうか?現在、全配列を決めるだけであれば、4400ドルでできるそうです(論文をみる)。解析もあわせて数十万でできる日は近そうです。

採血は2mlだけですので、数十万円なら、ビジネスとして成立すると思います。次世代シーケンサーの利用法としても悪くないかもしれません。人間ドック(3-4万円、10万円以上のコースもある)は1回では済みませんが、これは1回だけでOKです。

次世代シーケンサー(本論文ではHeliScopeを使用)

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