TGF-β-FOXOシグナル経路は、慢性骨髄性白血病の白血病幹細胞を維持する

TGF-β–FOXO signalling maintains leukaemia-initiating cells in chronic myeloid leukaemia

以下は、要約です。


慢性骨髄性白血病(CML)は、染色体の転座によって、活性化型のBcr-Ablチロシンキナーゼができることが原因である。Bcr-Aclは、Aktシグナル経路の活性化を介して、フォークヘッドO型転写因子(FOXO)を抑制し、CML細胞の増殖を促進する、あるいはアポトーシスを阻害すると考えられている。

チロシンキナーゼ阻害剤イマチニブの使用は、CML治療のブレークスルーだったが、イマチニブ投与は、CMLの再発を引き起こす白血病幹細胞(LIC)を根絶することができない。

本論文では、CML様骨髄増殖性疾患マウスモデルの同種移植実験によって、Foxo3aがCML幹細胞の維持に必須の役割をもつことを報告する。

白血病幹細胞では、Foxo3aが核に局在し、Aktのリン酸化が減少している細胞の比率が多いことがわかった。 Foxo3a+/+および Foxo3a-/-マウスから採取した白血病幹細胞の骨髄移植実験により、Foxo3aノックアウトは、白血病幹細胞の白血病発症能力を有意に抑制することが示された。

さらに、白血病幹細胞では、TGF-βがAkt活性の重要な調節因子であるり、Foxo3aの局在を制御することを見いだした。

TGF-β阻害剤、Foxo3aノックアウトおよびイマチニブ投与の3つを組み合わせると、in vivoでCMLが効率よく除去された。さらに、ヒトのCML幹細胞をTGF-β阻害剤で処理すると、in vitroでのコロニー形成が阻害された。

以上の結果は、白血病幹細胞の維持にいてTGF-β–FOXO経路が重要な役割を果すことを証明し、in vivoでCML幹細胞を特異的に維持するメカニズムの理解を深める。


CML細胞では、Bcr-AclによってAktが活性化されており、Foxo3aは活性化Aktによりリン酸化・抑制されて核外に存在している。この状態でイマチニブ(商品名、グリベック)を投与すると、急にFoxo3aが活性化され、細胞はアポトーシスに陥る。

一方、幹細胞では、Bcr-Aclの存在にもかかわらず、TGF-β経路によってAktが抑制されるため、Foxo3aは活性化型のまま核内に存在する。この状態でイマチニブを投与しても細胞はアポトーシスをおこさない。という仮説です。

一般には、Foxoの抑制が腫瘍化・悪性化の原因なのですが、Bcr-Aclという爆弾を抱える細胞(幹細胞)の場合は、Foxoが活性化されて核に存在することが細胞増殖を抑制し、イマチニブによるアポトーシス誘導から免れるというちょっとわかりにくい話です。

臨床的な意義としては、Foxo3aあるいはTGF-β経路の阻害薬の併用で、イマチニブによるCML治療効果が改善するかどうかです。

本論文でも、TGF-β阻害薬がイマチニブの効果を増強することが確認されましたが、同様の結果は既に他のグループによって報告されています。Foxo3a阻害薬はまだ開発されていません。

イマチニブ耐性の克服のために、これまで、スニチニブ、ニロチニブ、エベロリムスなどの薬物が開発されてきました。これにTGF-β阻害薬やFoxo3a阻害薬が加わるのか?今後の展開を注目したいと思います。

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