ブタ胚の遺伝子編集は、移植臓器の不足を解決?!
将来の臓器移植のドナーはブタかも、遺伝子編集技術CRISPRで「異種移植」の実現に進展
これらの記事はどちらも、Science誌に掲載された”Inactivation of porcine endogenous retrovirus in pigs using CRISPR-Cas9″という論文の内容を報道したものです(論文をみる)。以下は、上の記事からの抜粋です。
ブタの内臓は人間のものと同じ大きさで、機能的にもよく似ている。そこで、ブタの臓器を人間に移植できないかという発想が出てくるわけだが、これにはなかなか難しい問題があった。移植した際に、豚の細胞内に潜むウィルス性疾患が顕在化することがあったからだ。
遺伝子編集(CRISPR-Cas9)を施した豚についての記事がScienceに掲載されている。研究を行った科学者によれば、遺伝子編集の技術を用いて、すべてのブタに認められるブタ内在性レトロウイルス(PERV)を不活性化(inactivation)することに成功したのだそうだ。
これによりブタの臓器を人体で利用するという、異種移植への道が開かれることとなる。現在、アメリカには117,000人の移植待機者がいて、ドナー不足から22名の人が毎日亡くなっている。ブタの心臓や肺などが人間に移植できれば、多くの命を救うことができるようになる。
PERVを不活性化して異種間感染を防いで、移植を実現する具体的な方法が示されたのは、これが初めてのこととなる。
研究成果の発表を行ったeGenesisによれば、ブタの胚細胞に対して遺伝子編集を行いつつ、62個のレトロウィルスの非活性化を行いながら細胞を生かし続ける技術を開発したのだとのこと。処理後の胚を胎内に移植することで、PERVフリーなブタに成長する。
eGenesisは、遺伝子編集を行ったブタの様子を注意深く観察し、「PERVフリーのブタから、安全で効果的な異種間臓器移植を実現できるように」していく予定なのだとのことだ。
2015年10月の関連記事では、同じグループが不死化したブタの培養細胞でのPERVの不活性化に成功したことを紹介しました(記事をみる)。また、2016年4月の関連記事では、ヒヒの体内にブタの心臓を移植し、945日間(約2年7か月)ヒヒを生存させ続けることに成功したことを紹介しました。ヒヒの生存は、組織適合抗原遺伝子の改変と免疫抑制薬の投与によって可能になったとされています(記事をみる)。
今回の論文は、初代培養細胞のPERVを不活性化し、体細胞核移植によってPERVを不活性化したブタの個体の作成に成功したという報告です。PERVを不活性化し、組織適合抗原などもヒトと同じように改変できれば、免疫抑制薬を使わないでも異種間臓器移植が可能になるかもしれません。
iPS細胞やES細胞を使う再生医療では、細胞や組織は作れても臓器を作ることができません。また、細胞を培養するコストよりもブタを飼う費用の方が格段に安いことが期待されます。将来は、ヒトに拒絶反応なく移植できる臓器を持つ「遺伝子編集ブタ」の巨大な養豚場が病院の横に作られるようになるかもしれません。
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