以下は、記事の抜粋です。
がんの放射線療法はさまざまな場面で使われ、効果を現しています。しかし、肺がんの一種の非小細胞がんに対して手術後に放射線療法を行ったとき、これまでの研究データからは余命が短くなっていることが報告されました。
研究班は、非小細胞がんに対して、手術と術後放射線療法(Postoperative radiotherapy、PORT)で治療するか、術後放射線療法はなしで手術をするかで比較した研究報告を集めました。 データを統合した結果、PORTによって生存率に有意に有害な影響があり、死亡のリスクが相対的に18%増加した。
これは、全生存率を58%から53%に減らす。 つまり、術後放射線療法をしなければ手術後2年の生存率は58%でしたが、術後放射線療法をしたときは53%に下がっていました。
この結果から、研究班は結論として「術後放射線療法は完全に切除された非小細胞肺がんの患者には有害であり、ルーティンの治療において使われるべきでない」と述べています。
ここで紹介した結果は、非小細胞がんの手術後に限って当てはまります。同じ非小細胞がんでも手術できない場合には当てはまりません。脳腫瘍や乳がんなど、肺がん以外のがんにも当てはまりません。
放射線療法はある種のがんには高い効果を発揮し、余命を伸ばします。また、がんが骨に転移すると激しい痛みを起こしますが、放射線療法によって痛みを抑えることもできます。しかし、放射線療法を使うべき場面は適切に選ばなければなりません。
元論文のタイトルは、”Postoperative radiotherapy for non-small cell lung cancer”です(論文をみる)。
記事にも書かれていますが、肺の非小細胞がんは化学療法(抗がん剤治療)や放射線療法が比較的効きにくく、完全に切除できる場合は、できるだけ手術する方が治療結果が良いとされます。
がんが「完全に切除」されていれば、術後の放射線治療が不要なのは当たり前です。問題は、「がんの切除が完全かどうか?」が良くわからない場合が多い事です。このような場合に、「念のために」放射線治療を行うことがあるとすれば、術者が「完全に切除できた」と考える場合には放射線治療を行わないことになり、治療成績や余命に差がでるのは、もともとの非小細胞がんの性状が違うためかもしれません。多くの論文を調べたメタ解析ですが、患者を無作為に振り分けた研究ではないので、術後の放射線治療が全部悪いとは言わず、ルーティーンに行うことは避けるべきだという弱い結論になっています。
最近は、肺の非小細胞がんに対しては、オプジーボ®やキイトルーダ®などのPD-1を標的とした抗体医薬が有効であるとされ、急速に普及しています。これらと手術や放射線治療との有効な組み合わせが今後の大きな課題になると思います。
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