「マンジャロ問題」

マンジャロ問題、なぜ厚労省は“名指し”で呼びかけた?
以下は、記事の抜粋です。


厚労省よ、やっと本腰入れたか
【マンジャロは糖尿病のお薬です】マンジャロは「糖尿病」の治療を目的に承認された薬です。ダイエットなど、本来の目的以外で使用した場合、思わぬ健康被害が生じるおそれがあり危険です。医療者から薬のリスクについて十分な説明を受け、薬について正しく理解することが重要です。

上記は厚生労働省(以下、厚労省)のX(旧Twitter)アカウントが6月16日に行ったポストである。この日、厚労相の上野 賢一郎氏は閣議後の記者会見冒頭で以下のように語った。

「私から冒頭1点申し上げます。マンジャロ等の適正使用についてです。マンジャロは、2型糖尿病のみを効能・効果として承認されており、臨床試験ではダイエットなどの効果は証明されておらず、本来の目的以外で使用した場合、思わぬ健康被害が生じる可能性があります。お使いになる方には正しく理解して適正に使用いただくことが必要ですので、医療者の方からのリスクについての十分な説明を改めてお願いしたいと考えています。このため、本日、XなどのSNSを通じて国民の皆様向けにも改めて注意喚起を行うとともに、マンジャロ等の治療薬の適正使用を徹底するために、改めて医療機関等に通知を発出します」

実際、この日、同省は2件の通知を発出した。要は2型糖尿病や肥満症の治療目的ではなく、自由診療を通じた適応外の美容、痩身目的のGLP-1受容体作動薬関連製品の使用に対して注意喚起をした通知である。

そして、この日の夜の民放のニュースではやたらと「マンジャロ」という個別商品名が飛び交う、やや異常な状態となった。

もはや言うまでもないが、GLP-1受容体作動薬関連薬(以下、GLP-1製剤)では、2型糖尿病治療薬として発売された当初から美容目的の適応外使用が問題視されてきた。これまで厚労省がこの問題に関連して発出した通知は、美容目的の使用が原因の1つとみられる在庫ひっ迫や自由診療での広告規制をフックにしたもので、適正使用だけにフォーカスした通知は今回が初である。この件の適応外使用について苦々しく思っていた医療者にとっては、遅きに失した対応と受け止められていることだろう(私個人も同様である)。

改めて整理すると、国内で承認されている主なGLP-1製剤は以下の表のようになる。ご存じのように体重減少に重きを置いた肥満症の適応症があるのは現在2種類のみ。成分として体重減少効果が顕著とされているのは表の上位5製品だが、美容・痩身目的の自由診療では、表にあるそれ以外のGLP-1製剤も使われている。

国内で承認されているGLP-1製剤

はっきり言って、どの製剤であっても自由診療での美容・痩身目的での使用は適応外、あえて言えば「不適切使用」である。ただ今回、厚労省がわざわざマンジャロという商品名を挙げた理由は、肥満症の適応を有する同一成分のゼップバウンドが、同じく肥満症の適応を有するウゴービより体重減少効果が高いとされ、美容・痩身目的の人たちの間では人気があり、かつマンジャロは2型糖尿病のみが適応症であることを踏まえたからと考えられる。

さて、これらの適応外使用が問題となるのは、何よりも副作用の観点からだろう。これまた周知の通り、GLP-1製剤では悪心・嘔吐、下痢、便秘などの消化器症状の副作用発現率は大まかに言えば20~40%ほどとかなり高頻度である。多くの場合、これ自体が生命の危険には直結しないものの、実際私の周囲で使用している人(適応症に対して使用)のSNS投稿を見ても、相当苦しそうなことだけはよくわかる。

そして副作用の中でもとくに問題なのは、実は頻度の低い重篤な副作用である。世界的に美容・痩身目的の使用がかなり広まっている現実を考えれば、ごくわずかな頻度の副作用でもそれ相応の発生件数を記録することになる。例を挙げると、GLP-1製剤による低血糖、膵炎が該当する。

ゼップバウンド、ウゴービともに過去の臨床試験結果を見ると、軽症も含めた低血糖の発生頻度は5%未満であり、重度低血糖になると1%未満といわれている。もちろんこの数字は、2型糖尿病患者の場合には併用薬もある前提でのものなので、美容・痩身目的ならば理論上の発生頻度は相当低いはずである。

ただ、保険診療下で定期的な受診をし、医師の管理下に置かれている人と自由診療で処方されてフォローアップがほぼなしという人では、この理論上の発生頻度も大きく異なってくるだろう。前者の場合は主治医が低血糖への最大限の警戒を行っているのに対し、後者はよほど危険な兆候を本人が自覚しない限り事実上野放しである。さらに言えば、美容・痩身目的の人の場合、自己判断による過度な食事制限をしている場合もあるだろう。となると、こうした人での真の低血糖発生頻度は掴めないということになる。

発生頻度が1%に満たない急性膵炎でも、美容・痩身目的の人では膵臓機能自体が2型糖尿病や肥満症の人に比べ、より健康に近いと考えられるため、本来であれば、この発生頻度はほぼ無視できるかもしれない。とはいえ、肥満かつ2型糖尿病での事例ではあるが、米国ではGLP-1製剤の関与が否定できない重症急性膵炎による死亡例の報告1)もある。

そして何よりも恐ろしいのは、まだ既知とはいえない副作用のリスクである。実際、そうした事例は報告されている。これも米国での報告で、2型糖尿病がない高度肥満患者に横紋筋融解症が出現した事例2)である。GLP-1製剤の中止で改善し、投与再開で症状が再出現したというもの。このため、GLP-1製剤の使用が因果関係の可能性として示唆されている。

このようにしてみると、改めて美容・痩身目的の自由診療における安全管理の甘さに強い危機感を抱かざるを得ない。今回、厚労省は今までよりは一歩踏み込んだが、どれだけ注意喚起の通知を出したところで、現状では自由診療で処方する一部の医師による不適切な処方の横行を止める有効な手立てにはなっていない。

「約2,000万回以上表示のポスト」というSNS上の数字の裏で、いつ深刻な健康被害が顕在化してもおかしくない薄氷の状況が続いている。今求められているのは、単なるアナウンスメントではなく、不適切な自由診療に対する実効性のある規制ではないか?


現在、マンジャロと同じチルゼパチドを成分として含むゼップバウンドが保険適用となるには、以下のすべての基準を満たす必要があります

1. BMIと合併症の基準
BMI 35以上(高度肥満)、
またはBMI 27以上 であり、高血圧、脂質異常症、2型糖尿病のいずれかを併存し、かつ「肥満に関連する健康障害」(脂肪肝、睡眠時無呼吸症候群、変形性関節症など)を 2つ以上 有していること

2. 事前の治療期間
薬物療法を開始する前に、6か月以上の食事・運動療法 を行っても十分な体重減少効果が得られなかったこと医療機関の要件厚生労働省・製薬会社に登録された、肥満症治療に精通した指定医療機関(主に大学病院や専門の肥満外来など)であること。

個人的な意見ですが、関連記事に紹介したように「肥満は万病のもと」でGLP-1受容体作動薬により肥満を治療することで合併症のほとんどが治癒することを考えたら、上のゼップバウンドが保険適用となる基準が厳しすぎることが、美容・痩身目的の自由診療がはびこる原因だと思います。

また、厚労相の上野氏が「マンジャロは、臨床試験ではダイエットなどの効果は証明されておらず」とか言ったのは、さすが日本の大臣だと思いました。

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