アルツハイマー病に対する抗体医薬を投与希望者に伝えるべきポイントは?

アルツハイマー病治療薬ドナネマブとレカネマブ、投与希望者に伝えるべきポイントは?
以下は、記事の抜粋です。


2024年11月13日、厚労省の中医協はアルツハイマー病(AD)の新規治療薬であるドナネマブ(商品名ケサンラ)について、薬価収載を了承した。これにより、2023年12月に発売されたレカネマブ(レケンビ)に加え、「アルツハイマー病による軽度認知障害および軽度の認知症の進行抑制」に用いることのできるアミロイドβ(Aβ)に対する抗体医薬の選択肢は2つに増えた。専門医はこの状況をどう受け止めているのか。岐阜大学脳神経内科学教授の下畑享良氏に聞いた。

──今の状況について、どのように受け止められていますか。

下畑 「治療の選択肢が増える」という観点で、抗体医薬に注目が集まっていると思いますが、特定のリスク遺伝子を持つ場合には投薬に伴い重大な副作用が生じる可能性があること、また薬価が高い(レカネマブ:約298万円/年、ドナネマブ:約308万円/年[体重50kgの場合])ため患者への負担や社会全体の医療費が増大することなども踏まえ、処方するかは慎重に検討すべきだと捉えています。

ADの神経変性は、脳内Aβの産生とクリアランスの不均衡による、脳内におけるAβの蓄積に起因するとされています。レカネマブはAD患者の脳内に蓄積したAβ凝集体(プロトフィブリル)を、ドナネマブは脳内のAβプラークのみに存在すると考えられるN3pGAβ(N末端第3残基でピログルタミル化されたAβ)をそれぞれ標的とする免疫グロブリンG1モノクローナル抗体です。両剤とも脳内のAβ量の減少を促し、ADによる軽度認知障害(MCI)および軽度の認知症の進行を抑制することが期待されています。

しかし、抗Aβ抗体で共通して見られる副作用であるアミロイド関連画像異常(ARIA)への懸念があります。

──ARIAはどのような副作用なのでしょうか。

下畑 ARIAは主に、ARIA-E(脳浮腫や脳胞液貯留)とARIA-H(脳微小出血、脳表ヘモジデリン沈着症)に分けられます。症状としては、頭痛、錯乱、悪心・嘔吐、視覚障害、ふらつき、めまい、歩行障害、振戦、言語障害、認知機能の悪化、意識変容、発作などが知られています。

添付文書によると、ARIAの発現頻度は、レカネマブではARIA-Eが12.6%、ARIA-Hは微小出血およびヘモジデリン沈着が13.6%、脳表ヘモジデリン沈着症が5.2%であり、ドナネマブではARIA-Eが24.0%、ARIA-Hが31.4%です。重篤なARIAについて、レカネマブは記載されていませんが、ドナネマブは1.6%で、いずれの薬剤も臨床試験で死亡に至った症例が報告されています。さらに、レカネマブが臨床現場で活用されはじめてからは、海外で複数の死亡例が確認されています。

ARIAの有無はMRI検査で評価します。レカネマブとドナネマブのいずれも、投与に当たっては定期的なMRI検査の実施が求められています。

現在、ARIAリスクを評価する方法の検討が進みつつあります。その1つがアポリポタンパク質(ApoE)遺伝子検査です。個人的には、レカネマブやドナネマブを投与する場合は、事前に同検査を実施すべきだと考えています。

──ApoE遺伝子検査について詳しく教えてください。

下畑 ApoE遺伝子にはε2、ε3、ε4の3つの遺伝子型があります。ε4を保有する人はADになりやすいとされています。さらに、ARIAの発生リスクもε4保有者で高まることが明らかになっており、米国のレカネマブの添付文書では、投与前のApoE遺伝子検査が推奨されています。

──患者から投与を希望されることはありますか。

下畑 私は処方前にApoE遺伝子検査を行う必要があると考えていますが、現在は日本では必須とされておらず、また保険適用外です。このため研究目的ということで患者に同意を取り、ApoE遺伝子検査を行っている施設が多いのではないかと思います。

プライマリ・ケア医の先生方も、AD患者や家族・介護者から、レカネマブやドナネマブについて質問されることがあるでしょう。投与を希望された場合は、薬剤のリスクとベネフィットをしっかりと説明していただく必要があると感じています。

──具体的に、どのようなことを伝えればよいでしょうか。

下畑 (1)投与対象がAD患者の中でも、Aβ病理を示唆する所見のある、MCIあるいは軽度の認知症に限られる(レカネマブはMMSE22点以上、ドナネマブは同20~28点)、(2)疾患の進行を完全に停止させたり、治癒したりできる薬剤ではない、(3)投与前にMRI検査(ADの診断および禁忌病変の有無の確認)に加え、アミロイドPET検査や脳脊髄液(CSF)検査などAβ病理を示唆する所見の有無の確認を目的とした検査を受ける必要がある──などは重要なポイントだと感じています。これらについて丁寧に説明し、患者側の納得を得る必要があります。

特に(2)は、患者や家族・介護者にきちんと理解してもらわなければなりません。レカネマブ、ドナネマブともに、プラセボを対照とした第3相試験で認知機能の改善は認められず、低下を遅らせる効果が確認されただけでした(臨床症状の悪化抑制率は、レカネマブで27.1%[投与後18ヵ月時点]、ドナネマブで22.3%[投与後76週時点])。つまり、投薬しても「症状の悪化は止められない」わけです。伝え方としては、「あることができなくなるスピードを『数カ月』から『1年』へと遅くする程度の、病状の悪化を緩やかにする薬剤です」などが挙げられます。

しかしながら多くの患者、家族・介護者は、レカネマブやドナネマブを「ADを治す薬剤」と捉えて、期待しています。患者側から処方を希望された場合は、安易に専門医に紹介する前に薬剤の効果について、どのように受け取っているかをしっかりと確認していただきたいです。


薬価だけではなく、薬を飲むのに必要な検査にもお金がかかります。ARIAの可能性もあるので、処方するかは慎重に検討したいと思います。

MCIスクリーニング検査
アルツハイマー型認知症の原因物質といわれるアミロイドベータペプチドを調べる検査で、自費で25,000円です(リンクをみる)。

アミロイドPET検査
脳内のアミロイドβの蓄積の有無や程度を調べる検査で、放射性医薬品合成設備の有無や薬剤の種類によって費用が異なります。負担割合は10割、3割、1割が選べ、3割負担の場合は約75,000円です(リンクをみる)。

APOE遺伝子検査
APOE遺伝子を調べることでアルツハイマー病の発病リスクを調べる検査で、費用は20,900円(税込)です(リンクをみる)。

コメント

タイトルとURLをコピーしました