2型糖尿病に新しいタイプの薬の可能性
以下は、記事の抜粋です。
ニクロサミドは現在寄生虫感染の治療に使われている薬だが、その誘導体が糖尿病の合併症を緩和することが、2型糖尿病のマウスモデルで明らかになった。
ニクロサミドは、寄生虫のミトコンドリアのATP合成能を低下させる。Victor Jinたちは、ニクロサミドの塩、ニクロサミドエタノールアミン(NEN)を糖尿病のマウスモデルに投与した。するとNENが肝臓に選択的に蓄積し、肝臓でのミトコンドリアのATP合成能を低下させることが分かった。細胞のATPレベルが低下すると、シグナル分子が活性化され、肝細胞に貯蔵脂肪の燃焼量を増やすよう、情報を伝達する。
2型糖尿病の特徴の1つは、細胞がインスリンに反応しなくなるインスリン抵抗性で、その結果、血糖値が上昇する。Jinたちによれば、肝細胞の脂肪が減少すれば、肝細胞がインスリンに反応できるようになり、血糖値が低下するという。NENを投与したマウスの肝臓では、細胞内の脂肪の燃焼が亢進することにより、2型糖尿病によく見られるもう1つの合併症である脂肪肝の発生も減少した。
元論文のタイトルは、”Niclosamide ethanolamine–induced mild mitochondrial uncoupling improves diabetic symptoms in mice”です(論文をみる)。
ミトコンドリアでは、内膜の内外のプロトン濃度勾配を利用してATPが合成されます。プロトンの濃度勾配は電子伝達系とよばれる仕組みでつくられ、プロトンの濃度勾配を利用してF-ATPaseによりATPを作る仕組みは酸化的リン酸化とよばれます。
論文で、NENはアンカプラーだと書かれています。アンカプラーとは電子伝達系と酸化的リン酸化のカップリング(共役)を壊す薬物です。最もよく知られたアンカプラーは2,4-ジニトロフェノール(DNP)で、F-ATPaseの駆動力であるプロトン勾配を壊す作用があります。DNPを投与すると、自由エネルギーはATPではなく熱になるので発熱がおこります。ヒトの場合40度以上の高熱になり死亡することもあるそうです。
DNPを服用すると体脂肪がどんどん消費されるために体重減少作用があり、1930年台のアメリカでやせ薬として広く使われた歴史があるそうです。しかし、上記のように急激な発熱という副作用があるために使われなくなりました。恐ろしいことに、今でもDNPを含むダイエットサプリによる死亡事故が報告されているそうです。
NENは、サナダムシの駆虫薬として既にFDAに認可され、安全性も確かめられているそうです。論文では、哺乳動物に対してもミトコンドリアのアンカプラーとして働くことやマウスの体温を上げずに基礎代謝上げることを示しました。さらに、高脂肪食によるインシュリン抵抗性の改善、インシュリン分泌が遺伝的に低い糖尿病マウスモデルの症状改善、高脂肪食による脂肪肝の改善などが示されています。
発熱がおこらない理由は良くわかりませんが、代謝が早く半減期が約1時間半であること、水溶性が低いため肝臓に集中し他臓器には分布しにくいことなどが考えられています。
作用メカニズムとしてはAMPキナーゼの活性化が考えられています。しかし、AMPキナーゼを刺激することが知られているメトホルミンとは異なり、血中の乳酸を低下させるので、乳酸アシドーシスなどのリスクはないとされています。
マウス以外にもラットやイヌで良好な結果が得られたそうです。ヒトでの効果が確認されれば、駆虫薬としての安全性が確認されているので、あっという間に市場に出てくる可能性があります。今後の動きに注目したいと思います。
コメント
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何でも薬に成る…f(^^;