いつまで続く?高齢者への「潜在的に不適切な処方」

避けた方がいい薬を処方される人たち、あなたや家族は大丈夫?高齢者への「潜在的に不適切な処方」、心配なら医師にどう相談すべきか
以下は、記事の抜粋です。


長年服用している薬がある人は、高齢になっても服用し続けて問題ないと思っているかもしれない。だが医師たちは、多くの高齢者が「潜在的に不適切な処方(PIMs, potentially inappropriate medications)」を受けていると指摘している。高齢になったり新たな病気にかかったりしたために、これまで飲んでいた薬がもはや安全ではなくなっているおそれがあるということだ。

2023年8月に医学誌「JAMA Network Open」に掲載されたレビュー論文によると、世界の高齢(60または65歳以上)外来患者の37%が、潜在的に不適切な薬を服用していると推定された。割合には地域差があり、アフリカと南米では47%と最も高く、アジアは37%、ヨーロッパは35%、北米は29%だったという(日本では、潜在的に不適切な処方の割合が2014年の26.8%から2019年には43.7%に増えていた)。

不適切な薬の服用は、転倒、せん妄、抑うつ、めまい、錯乱、平衡感覚障害、認知症、幻覚、胃などからの出血、不整脈、骨量減少、尿閉などのリスクを高め、さまざまな副作用の増加や、救急外来の受診、生活の質の低下につながる。

40代、50代のときによく効いていた薬は、60代、70代になってからも効く可能性もあるが、良い効果より害の方が多くなっている可能性もあり、多くの患者は、若い頃と同じ薬を飲み続けることが問題になる可能性があるとは気づいていない。

医師の中にも、この危険に気づいていない人々がいる。術後合併症を引き起こす可能性もある。患者の69%が潜在的に不適切な処方を1つ以上受けていて、それが手術後の入院期間の長期化と関連していることが明らかになった。

気を付けるべき薬
米国老年医学会は、高齢者への処方が不適切になりうる薬を「ビアーズ基準」というリストにまとめている。リストは医師や研究者やその他の医療従事者によって広く使用され、数年ごとに更新されている(日本では国立保健医療科学院が作成した日本版ビアーズ基準や日本老年医学会の「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」などがある)。

2023年版のビアーズ基準は、(1)65歳以上の高齢者への処方が不適切となりうる薬、(2)心不全、認知症、パーキンソン病など、特定の疾患のある高齢者への処方が不適切となりうる薬、(3)高齢者には慎重に使用すべき薬、(4)問題となりうる薬物間相互作用、(5)腎機能に応じて投与量を調整すべき薬、の5つのカテゴリーからなる。

このリストには、一般的に使用されている薬が200種類以上含まれている。例えば、第1世代抗ヒスタミン薬(経口ジフェンヒドラミンなど)、ベンゾジアゼピン系薬(アルプラゾラム、クロナゼパム、ジアゼパムなどの抗不安薬)、一部の心血管系薬(心不全や心房細動の治療に用いられるジゴキシン、高血圧症の治療に用いられるクロニジンなど)、一部の抗うつ薬(アミトリプチリン、パロキセチンなど)、 ある種の抗精神病薬(睡眠障害に対して適応外で使用されることが多い)、胃酸の分泌を抑えるプロトンポンプ阻害薬、一部の筋弛緩薬、慢性的な非ステロイド性抗炎症薬(イブプロフェンやナプロキセンなど)やその他の鎮痛薬の使用などが挙げられている。

特定の薬が問題となる理由
ある種の薬が高齢者に害を及ぼす理由はたくさんあるが、最も広く当てはまるのは、加齢に伴う生理的変化との関係だ。

年をとると代謝が低下することはよく知られている。一方、加齢に伴う視力、聴力、骨密度の変化により受けやすくなる副作用もある。

例えば、抗コリン薬はアセチルコリンという神経伝達物質の働きを抑える薬で、アレルギー、うつ病、呼吸器疾患、過活動膀胱、心血管疾患、パーキンソン病の治療に使われるが、「高齢者が服用すると錯乱やせん妄を起こすことがあります」と氏は言う。

多くの医師は「この病気にはこの薬」という考え方をしており、高齢者に使うとリスクになりうる薬があることを認識していない医師もいる。その原因の一つに、これらの薬は比較的若い人を被験者として研究されており、高齢者に問題が生じるケースが後から明らかになったことが関係しているかもしれない。

医師に相談しよう
高齢者とその家族にとって大切なのは、定期的に医師に相談して薬を見直してもらうことだ。潜在的に不適切な処方と関連がありそうな症状が出ていると思ったら、医師に伝えよう。

症状がなくても、医師に「なぜこの薬が必要なのでしょうか?」「どんな効果があるのですか?」「ずっとこの薬を飲んできましたが、私の年齢で飲んでいても安全なのでしょうか?」と尋ねてみることが勧められる。目標は、服用している薬をすべて検討して必要ないものを判断してもらうことだ。

脱処方(deprescribing)とは、患者に害をなすおそれのある薬や、必要なくなった薬を徐々に中止または減量していくことであり、高齢者では特に重要だと考えられている。害をなしているおそれのある薬をやめることで、その人の本来の状態が見えてくる可能性があり、格段に良くなることも多い。

投与量の調節が必要になることもある。患者が高齢になるにつれて、薬の量を調節したり、潜在的に不適切な処方を避けるために薬を減らしていったりする必要が出てくるかもしれない。患者の状態はたえず変化している。医師は、患者を前にした瞬間から、病気ではなくその人全体に目を向けなければならない。


2015年の本ブログにも書きましたが、日本の「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」は、同年の4月に発表された「」では、「中止を考慮すべき薬物もしくは使用法のリスト」とされていたものが、11月に発表された「完成版」では、「特に慎重な投与を要する薬物のリスト」に変更され、薬の種類も減りました(サイトをみる)。おそらく多くの医師から文句を言われたのでしょう。それ以来改訂されていません。

「日本版ビアーズ基準」も2008年に発表されて以来、一度も改訂されていません。「数年ごとに更新されている」というアメリカ版とえらい違いです。

下の写真で紹介したベンザブロックヤスモには、前立腺の大きい高齢男性で尿閉を引き起こす可能性が高いジフェンヒドラミンが配合されていますので、オシッコガ出にくい高齢男性は決して飲むべきではないです。

その他、甘草や麻黄を含む漢方もダメですが、日本ではほぼ野放しで処方されています。最初の警告から10年近く経ちますが、改善される気配はありません。自分で調べて身を守ってください。

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