サソリ毒の「痛みを感じない」ネズミ、その秘密は電位依存性NaチャネルNaV1.8にあった

サソリ毒の「痛みを感じない」ネズミ、仕組みを解明 米研究
以下は、記事の抜粋です。


野ネズミの1種であるミナミバッタマウス(Grasshopper mice、学名:Onychomys torridus)は、その進化の過程で、サソリを捕食するために毒針の痛みを感じないようにする能力を身に付けたとの研究論文が10月24日のScience誌に発表された。

アリゾナ・バーク・スコーピオン(Arizona bark scorpion)の毒は強烈で、刺されると命を落とす恐れもあるという。研究グループのAshlee Rowe氏は、「大半の人は、火のついたたばこを押しつけられ、そこを釘で貫かれるような感覚」と表現する。人間が刺された場合、おそらく数分から数時間は痛みが消えないだろう。

一般的なネズミは、後ろ足にサソリの毒を注射すると足をなめる回数が大幅に増える。生理食塩水を注射した場合は足をなめる回数が毒の時よりも少なかった。だがミナミバッタマウスは、まったく逆で、後ろ足をなめる回数は、毒を注入された時よりも、生理食塩水を注射された時のほうが多かった。

哺乳類における「痛み」は、通常、生き残るために必要とされ、ナトリウムチャネルの「NaV1.7」と「NaV1.8」によって脳と神経系に伝えられる。ミナミバッタマウスのNaV1.8は、一般的なネズミのものと異なり、サソリの毒と結合して痛みの伝達を阻害する。その結果、しばらくの間は、その他の原因による痛みの感覚も一時的に失う。

この数百万年に及ぶ自然淘汰を利用して、ナトリウムチャネルなどの重要な薬剤標的に取り組む新たな方法を見つけることが可能になるかもしれない。


元論文のタイトルは、”Voltage-Gated Sodium Channel in Grasshopper Mice Defends Against Bark Scorpion Toxin”です(論文をみる)。

記事には、「ナトリウムチャネルの『NaV1.7』と『NaV1.8』として知られる痛覚の受容体」とありますが、これは誤りで、ナトリウムチャネルは受容体ではなく、受容体により生じた痛みシグナル(電位変化)を中枢へ伝える分子です。

NaV1.8チャネルの862番目のアミノ酸が他の多くの生物はグルタミン(Q)であるのに対して、ミナミバッタマウスではグルタミン酸(E)であることが、サソリ毒がNaV1.8に結合して働きを阻害するのに重要なようです。

サソリ毒がミナミバッタマウスのNaV1.8に引きおこすような構造変化をヒトのNaV1.8に生じさせる化合物があれば、新しい鎮痛薬になるかもしれないという話です。

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