ある種の食虫有袋類の雄が交尾直後に死ぬ理由

有袋類の雄が交尾で死ぬ理由、豪チームが解明
以下は、記事の抜粋です。


食虫有袋類の一部の種が、なぜ交尾の後に死んでしまうのかという疑問は、数十年にわたり科学者らの頭を悩ませてきた。生殖を1回だけ行って死ぬ生物は、植物や一部の魚類では一般的だが、哺乳類では非常に珍しい。

この珍しい哺乳類の例として、ネズミに似た「アンテキヌス(antechinus)」などの小型有袋類が挙げられる。豪クイーンスランド大のDiana Fisher氏によると、これら有袋類の雄は、交尾に没頭しすぎるために男性ホルモンのテストステロンのレベルが高くなり、これが引き金となってストレスホルモンがねずみ算的に増加する「カスケード効果」が発生する。このストレスホルモンの急激な増加により、体内組織が破壊され、免疫系が崩壊するという。

Fisher氏は「一度に多数の雌と12~14時間も交尾を行い、競争のように交尾するために筋力と体内組織の限りを尽くし、持てるエネルギーのすべてを使い切る」と語る。「雄たちはこうした究極の方法で交尾して、自らの命を絶つのだ」

今回の研究では、オーストラリア、パプアニューギニア、南米に生息する食虫有袋類52種を比較調査した。この52種すべてが交尾後に死ぬわけではなかった。

調査の結果、雄の交尾後の生存率が低い種の中に、「自殺的生殖」と呼ばれる行動を取る種が含まれていることがわかった。これらの種は、他の種と比べて発情期が短く、大きな睾丸を持っており、数多くの雌を受精させることができる。雌もまた、年1回の同時期に一斉に発情期に入ることに加え、相手を選ばずに交尾することで、競争をエスカレートさせている。

「短い発情期は、雄間の競争を激化させ、交尾へのエネルギー投入量を増加させて、交尾後の生存率を低下させることを明らかにした。雌による交尾前の性選択が、哺乳類の自殺的生殖の進化を後押ししたという結論に達した」と論文は述べている。


元論文のタイトルは、”Sperm competition drives the evolution of suicidal reproduction in mammals”です(論文をみる)。
どういう結果からこのような結論が導かれるのかと思って論文を読んでみました。論文には

Fig.1 “Mean index of seasonal predictability in arthropod abundance (Colwell’s P) plotted against mean latitude of sample points for 10 species of dasyurid and didelphid marsupials in rainforest habitats (A) and 5 species in grassland (B)”.と

Fig.2 “Mean Colwell index of seasonal predictability in arthropod abundance
(P) at sites with population studies or surveys of insectivorous marsupials,
plotted against breeding season length of each species.”と

Fig.3 “Mean scrotal width plotted against body mass of male insectivorous marsupials with <10% postmating survival in males”という2つのプロット図と

“Correlates of male life history strategy in insectivorous marsupials”という1つの表があります。

Fig.1は、緯度が高いところに住む食虫有袋類には交尾直後に死ぬ種類が多い(その他の種類は生涯に2回以上繁殖する)こと、Fig.2は、繁殖期間が短い種類には交尾直後に死ぬ種類が多いこと、Fig.3は、交尾直後に死ぬ種類の睾丸は大きい傾向があることを示しています。また、表1は、上記の図の結果を支持するとともに、交尾直後に死ぬ種類は、平均交尾時間が9時間を超えており、他の種類よりも著名に長いことを示しています。

要するに本研究は、52種の食虫有袋類を交尾直後に死ぬ度合いで分類し、交尾直後に死ぬ食虫有袋類の多くは、死なない種類に比べて、1)繁殖期間が短い、2)睾丸が大きい、3)交尾時間が長いという3つの結果を得たものです。

動物のホルモンレベルを調べたり、抗テストステロン薬を投与したりしたのかなどと思いましたが、そうではありませんでした。メカニズム的な実験をまったくせず、現象論だけでここまで言えるというのはうらやましい業界だと思います。

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