青い目をしたすべての人は約1万年前に突然変異を起こした共通の祖先から派生した可能性
以下は、記事の抜粋です。
人間の虹彩には茶色や灰色、緑色など人種や地域によってさまざまな瞳の色が存在します。一方で世界の約10%とされる青色の虹彩を持つ人は、約6000年から1万年前に住んでいた一人の祖先から派生した可能性があることが示唆されています。
そもそも人間における髪や肌、虹彩などの色はメラニン色素の量で決まり、虹彩が茶色の場合はメラニンの量が多く、青色の場合は量が少ないとされています。
また虹彩の色を決定づけるメラニンの量には「OCA2」と呼ばれる遺伝子が大きく関わっています。OCA2から生成されるタンパク質は、メラニンの生成や貯蔵に関わる細胞の成熟を促し、虹彩のメラニン量に重要な役割を担っています。
さらにこのOCA2が突然変異すると、もともと茶色だった虹彩は緑色やヘーゼル色に変化する可能性が示唆されています。一方で、茶色の虹彩が青色に変わる原因は明らかにされていませんでした。
2008年にコペンハーゲン大学のハンス・アイバーグ氏らの研究チームは、茶色の虹彩が青色に変化する要因は、OCA2ではなく「HERC2」と呼ばれる遺伝子にあることが判明しました。
HERC2には、OCA2の発現を制御する機能があり、HERC2が突然変異を起こすと、OCA2の発現を低下させることでOCA2から生成されるタンパク質の量を減少させます。その結果、虹彩のメラニン量が減少し、茶色の虹彩の生成が阻害され、青色の虹彩に変化すると考えられています。
アイバーグ氏はHERC2の突然変異について「最初にHERC2遺伝子の突然変異を起こした人物のおかげで、青い虹彩を持つ人間が誕生しました」と述べています。最初にHERC2に突然変異を起こした人物から次の世代へと変異が遺伝し、青色の虹彩を持つ人物の数は次第に増加していきました。
HERC2のルーツを調査した研究チームによると、ヨーロッパ系の人々に多く見られる青色の虹彩は、約6000年前から1万年前の新石器時代に黒海周辺に住んでいた人々から発展した可能性があるとのこと。その後、HERC2の突然変異を起こした約6000年前から1万年前の人物は北欧を中心に移住し、現代ではスカンディナヴィア半島に住む人々に青色の虹彩の割合が多くなっているとされています。
元論文のタイトルは、”Blue eye color in humans may be caused by a perfectly associated founder mutation in a regulatory element located within the HERC2 gene inhibiting OCA2 expression(ヒトの青い目の色は、HERC2遺伝子内にあるOCA2の発現を抑制する制御エレメントの創始者変異によって引き起こされた可能性がある)”です(論文をみる)。
福山型先天性筋ジストロフィー(FCMD)として知られる遺伝性疾患は、日本で最も一般的な劣性遺伝性疾患の1つで、幼児期から症状が現れ始め、ほとんど歩くことができず、青年期までに死亡してしまいます。原因は、フクチンと呼ばれるタンパク質をコードする遺伝子の異常です。この病気の起源は、2000年以上、約100世代前に、1人の日本人の先祖でおきた遺伝子異常だとされています(記事をみる)。
青い目もそうですが、病気を含む遺伝子の突然変異を指標にして、ヒトの地球の歴史の上での移動を知ることができるのは非常に興味深いです。
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