最近、以下の一連の記事に書かれているように「かぜの原因はウイルスなので、抗菌薬は効きません」というキャンペーンが行われています。
かぜに「抗菌薬」は効きません 半数が誤認(NHK)
効かないかぜへの「抗菌薬」3割が希望 耐性菌増の恐れ(朝日新聞)
かぜやインフルに抗菌薬が効くと半数が誤認識(日経メディカル)
以下は、2012年3月13日にm3の「臨床賛否両論」に掲載された記事です(記事をみる)。
成人ではウイルス以外も多い
「成人の『感冒』あるいは『風邪』の大部分はウイルスが原因と言われるが、十分な科学的根拠があるわけではない。中、高年者では細菌の関与の頻度はかなり高い可能性がある」。社会保険中央総合病院内科部長の徳田均氏はこう説明する。
徳田氏は、「特に30歳以上を対象とした実証的な調査がほとんど行われていない。また小児から若年者ではウィルスの関与は多いが、年齢が進むほどウイルスの関与率は低下するとの報告がある」と指摘する。
ウイルス説の根拠乏しい
風邪の原因は何か。徳田氏は過去の風邪の原因にかかわる臨床試験を論文情報の検索サービス「Pubmed」や「Up to Date」などを駆使して検索、最新の論文も含めて中身を検証した。
「風邪といっても、何を指すかがはっきりしないので、論文を見る上で『非特異性上気道炎』と『急性気管支炎』の2つを風邪として検討した。前者は感冒あるいはcommon coldとも呼ばれている。要するに、感冒と言えば、鼻汁や鼻閉などの鼻症状、咽頭痛があり、かつ比較的軽い咳や痰などの下気道症状が若干あるもの。風邪となると、より下気道症状が目立つものは、厳密に言えば急性気管支炎だが、これも臨床の現場では風邪として扱われる事が多いので、それをも含んだ総称として風邪という言葉を選んだ。咽頭炎は検討対象から外した」(徳田氏)。
その前提で、徳田氏は「風邪あるいは感冒の起炎菌を実証的に調べた研究は実は少ない」と言い切る。
しかも対象はほとんど小児で、成人を調べたものはごく少ないという。徳田氏が成人ではウィルス説に疑問を抱く大きな理由だ。
成人の感冒を調べた研究で、徳田氏が信頼性が高いと判断できたのは、1998年のフィンランドのMakelaらの報告くらい(J Clin Microbiol. 1998 Feb;36(2):539-42.、Lancet. 2003 Jan 4;361(9351):51-9. )。大学生200人を対象として、「感冒」のエピソードを最新の検査技術を総動員して原因菌を探索。この結果、69%でウイルスが原因と分かった。
「確かに信頼度は高く、立派な研究」と見る徳田氏も、この研究では成人全般をとらえきれないと見ている。「集団生活をしている20代前半の若者の感冒を対象としていた。特別な集団で起炎菌の7割がウイルスと証明したにすぎない。30歳以上についてはこのような科学的調査はほとんどない」と話す。
中高年は別
「中高年の風邪の原因菌を考える際、2つの大規模な地域密着型の研究が参考になる」と徳田氏。一つは1960年代から70年代に米国で行われた研究(Epidemiol Infect. 1993 Feb;110(1):145-60.)で、「風邪の原因はウイルス」説の根拠とされる最初期の研究だ。ウイルスの検出頻度は小児においては高く、年齢が高くなるに連れて急速に低下、特に40歳以上では極めて低かった、と報告された。
最近の研究では、2003年から2005年に行われたタイの研究がある(PLoS ONE 2011: Mar 29;6(3):e17780)。ある地域の8つの病院の共同研究で、急性気道感染症のライノウイルス検出頻度を見た。入院、外来ともに20歳以下、特に5歳以下ではウイルス検出率が高く、一方中高年では検出頻度は数分の1にとどまった。
「これらの研究結果から、成人ではウィルスの関与する率は低い、と受け止めるのが常識的な解釈だろう」と徳田氏。
さらに、徳田氏は、「近年の基礎研究から、ライノウイルス、インフルエンザウイルス などのウイルス感染により、気道は二次性に細菌感染を合併しやすくなるとの考え方が常識となりつつある。宿主の気道上皮が急速に変化してしまうからだ」と指摘する。
そのような細菌の二次性感染を考える上で徳田氏が参考にするのが、国内で1989年に東北大学の渡辺彰氏が行った研究だ。渡辺氏は地域医療機関と連携して、急性気道感染症の2359人を検証。年齢を問わず高率に細菌の二次感染が見られると報告したものだ(感染症学雑誌 1990;64:1209-1219.)。
急性気管支炎も、「原因はウイルス」と言われるが、実はそれを実証した基礎研究は少ない。Flahertyが急性気管支炎の原因について多くの研究を要約しており、ウィルス説の「典拠」として頻繁に引用されてきた(Postgrad Med. 2001 Feb;109(2):39-47.)。この総説の本文について、徳田氏は、「要約の結果として『原因はウィルスでもあろうし、細菌でもあろう』と書かれている。『大部分はウイルス性である』とはどこにも書いていない」と指摘する。
「中、高年の風邪の原因として、細菌関与の頻度が高いと推察される。小児、若者とは分けて考えるべきだろう」と徳田氏は述べる。
細菌相互作用に鍵?
徳田氏は「視点を変えると、確かに風邪の中にも子どもが幼稚園からもらってきて親がそれにかかる、いかにも感染性のケースはある。一方で、中、高年者が、誰とも会わないのに体を冷やしてしまって起こる風邪が相当な頻度で起きている。これがどうしてウイルス感染であり得るだろうか。そんな問題意識もある。当然別の機序を考えるべきだ」。
徳田氏は、耳鼻科領域で報告される「Bacterial Interference」に注目する(Am J Rhinol Allergy. 2011;25:82-8.)。上気道で常在菌が病因性のある菌の侵入を抑制していることが分かっている。「寒冷曝露などによりそれら常在菌を含む局所の免疫機構が破綻した時に、病原菌が侵入し、風邪を起こす、という考え方はどうだろうか」(徳田氏)。新しい観点から検証をしていくと、細菌性の風邪が起こる仕組みが分かってくる可能性があると徳田氏は見ている。
最初に風邪症状を引き起こすのがウイルスか細菌かは別にして、ウィルスが感染すると気道上皮が障害され、障害された粘膜へは細菌が感染しやすくなって、細菌による二次感染が生じる可能性が高くなると思います。症状としては、発熱が続き、膿性痰、末梢血白血球数の増加などがあれば細菌による二次感染を疑うのが自然だと思います。
高齢者の風邪症状に対しても「かぜの原因はウイルスなので、抗菌薬は効きません」というキャンペーンで、抗菌薬の使用を抑え込むのは正しいのでしょうか?徳田氏のご意見をお聞きしたいと強く思います。インフルエンザでゾフルーザを推奨する医師のご意見も聞きたいです。
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