ティラノサウルスに「唇」があった可能性、なぜ唇が重要なのか
以下は、記事の抜粋です。
ティラノサウルスは、博物館の展示や『ジュラシック・パーク』などの映画で、バナナほどもある大きさの歯をのぞかせた姿で描かれてきた。しかし、ティラノサウルスなどの肉食恐竜には、現在のトカゲのように、歯を覆う肉の唇があったという説が提唱された。
恐竜に唇があったのか、なかったのか。それは、何年も前から議論してきたテーマだった。今回の研究は、この問題を解決する具体的な証拠を提示するものであり、絶滅した動物の見た目だけではなく生態にまで迫るものだ。
ティラノサウルスのような恐竜は、特別に長い歯をもっていたのかを突き止めるため、現在のトカゲやワニの解剖学的構造や、恐竜の歯の微細構造を調べた。さらに、大型肉食恐竜であるティラノサウルスから小型肉食恐竜であるベロキラプトルやコエロフィシスまでを対象に、頭蓋骨と歯の大きさを比較した。
中でも注目したのは、シカゴのフィールド博物館に展示されている、最も保存状態のよいティラノサウルス「スー」の標本だ。スーの歯はとても長く見えるが、頭蓋骨との比率では、現在のオオトカゲと変わらなかった。つまり、特別に大きな唇がなくても、歯を覆えたはずだ。
恐竜の子孫である鳥には歯がなく、ワニは水中で生活する珍しい爬虫類だ。したがって、オオトカゲのような爬虫類は、鳥やワニよりも恐竜に近い種ではないが、恐竜の解剖学的構造と比較するうえでは役に立つ。
今回の研究の総合的な分析結果が示唆しているのは、ティラノサウルスや類似した恐竜は、頭蓋骨のサイズに対して特別に長い歯をもっていたわけではなく、通常の唇があれば、十分歯を覆えた可能性だ。さらに、恐竜の歯はエナメル質が比較的薄く、もし常に空気にさらされていればすぐに乾いてしまっただろう。そのため、唇によって歯の水分と機能が保たれていたと考えられる。一方、ワニは水生動物なので、歯の乾燥について心配する必要はない。
元論文のタイトルは、”Theropod dinosaur facial reconstruction and the importance of soft tissues in paleobiology(獣脚類恐竜の顔面復元と古生物学における軟組織の重要性)」です(論文をみる)。
この記事をみて、まったく関係ないですが、大昔、解剖学の授業でヒトの唇には他の部分の皮ふよりも多くの神経線維が分布しているので、キスには意味があるという話を聞いたのを思い出しました。
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