日本経済新聞の「私の履歴書」という連載は、引退した大企業の社長や文化勲章クラスの学者が自分の人生を振り返って、出生から現在までを1ヶ月にわたって描く自伝です。苦労話のような自慢話や家族への感謝ばかりでつまらないものも多く、梅棹忠夫氏のように、読んですっかり幻滅したこともあります。
ところが、今年の1月に連載された渡辺淳一氏のものは思わず読み嵌ってしまいました。作家の文章を抜粋するのも失礼なので、以下にそのサブタイトルといくつかの頭の部分を紹介します。それぞれの内容に興味を持たれた方は、サブタイトルでググってください。どこかで全文が見つかると思います。
(1) よくわからず なんとなく作家の道へ 読書より日常生活に学ぶ
(2) 炭鉱ブーム 祖母に商才、財を築く 母ら3姉妹、札幌に「留学」
(3) 女難の相あり 占いの言葉、母の口癖 小1の時にスカート騒動
(4) 札幌に定住 裕福な子供時代送る 炭鉱に見切り、祖母も同居
(5) トイレの落書き 札幌一中で性の目覚め 質実剛健の校風、下駄通学
(6) ユニークな授業 国語の時間、短歌「開眼」 異色担任、生徒をとりこに
(7) 文学への目覚め 中3から短歌を40首 小説へと踏み出す刺激に
(8) 女生徒から手紙 戦後の共学化は楽園 「誕生日祝ってあげる」驚く
(9) 純子の誘惑 ほろ苦かった初デート 会話ままならず、自責の念
(10) 雪像を染めた血 純子が吐血、告白決意 届かなかったラブレター
(11) 図書館での逢瀬 ためらいつつ初キス 受験控え会えない日々へ
(12) 阿寒湖畔の死 ミステリアスな最期 遺書代わり、7人の男に花
(13) 京都で学びたい 北大で恋と読書三昧 母に押し切られ医大受験
(14) 医科大学に進む 京都に未練残し帰郷 解剖実習で衝撃、死を自問
(15) 解剖実習の夜 屍体との奇妙な対峙、何も起きず失望と虚しさ
(16) 医学への興味 人間の原点、のめりこむ 哲学と対極、臨床にも没頭
(17) 国家試験に合格 解剖屍体題材に短編 医師として小説の道意識
(18) 整形外科医へ 医局で骨移植を研究 愛らしい看護婦と親密に
(19) 彼女の妊娠 深い関係、代償大きく 若さゆえの蹉跌、中絶懇願
(20) 関係に疲れる 不安・怯え、次第に距離 異動や転居経て自然消滅
(21) 大変な披露宴 医者の長女と“厳戒婚” 逆恨み恐れ仲人ビクビク
(22) 同人雑誌賞 「死化粧」で応募、文壇へ 伊藤整先生と銀座に遊ぶ
(23) 文壇の父 船山夫妻の死に唖然 作家の厳しさ、身に染みる
(24) 和田心臓移植 日本初の「快挙」と信じる 疑問の声に新聞上で反論
(25) 病院辞める決意 「2つの死」に自ら決着 作家専念を宣言、母は反対
(26) 東京へ 医と筆、二足のわらじ 愛人に浮気バレて修羅場
(27) 警官につかまる 彼女の部屋に男、激高 ドア越し騒動、通報される
(28) 直木賞の受賞 栄誉、まず母に捧げる 書きたいもの、まだ無数に
(29) 散財、売れっ子の証し 女性遍歴・愛憎、作品に彩り
(30) 永遠の人間賛歌 身勝手で残酷な稼業 愛の求道者貫き男の本懐
連載を受けてネットでは、「気分が悪い話の連続である」などの否定的なコメントと「『おそるべき絶倫情愛老人』あなたは渡辺淳一とどう向き合うか」などの肯定的(?)なコメントがたくさん出ています。私は読み嵌ってしまった時点で彼に降参しています。流石は小説家だと思いました。
私は先日のインドネシアの講演の時に、私の研究と教育のモットーは”honesty and love”だと言ってしまいました。これも彼の連載の影響かもしれません。
私が最もおススメする渡辺淳一作品は「遠き落日」です。野口英世の一生をこれほど面白く書いた本はないと思います。超人的な放蕩さと努力、傲慢と失望などなど、研究者としての生き方を教えてくれます。
コメント
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「私の履歴書」、ふだん読んでいませんが、渡辺淳一先生のは、あまりに面白くて読みました。「小学生の時、美しい女教師のフレアスカートに巻き込まれ~」というあたりから面白くて・・・。最後まで読んで、恋愛道を極めようという氏の生き方に、さすが!と思いました。