「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム」を発表しました
以下は、発表での序文です。
日本糖尿病学会は、肥満に起因するインスリン抵抗性主体の糖尿病が多くを占める欧米と異なり、日本人2型糖尿病は肥満と非肥満が半々で、インスリン分泌低下と抵抗性の程度が個人毎に異なっていること、熊本スタディやJ-DOIT3等の結果も踏まえて、血糖マネジメントこそ合併症抑制に重要であることから、個人毎の病態を考慮してどのクラスの糖尿病治療薬を使用するかを決定することを推奨してきました。
近年、日本の2型糖尿病の初回処方の実態が実際に欧米とは大きく異なること、高齢者へのビグアナイド薬(メトホルミン)やSGLT2阻害薬投与に関する注意喚起が広く浸透していること、それに伴い高齢者にはDPP-4阻害薬が選択される傾向が認められました。一方で、初回処方にビグアナイド薬が一切使われない日本糖尿病学会非認定教育施設が38.2%も存在したことも明らかになり、2型糖尿病治療の適正化の一助となる薬物療法のアルゴリズムを作成しました。
我が国における2型糖尿病治療アルゴリズム作成のコンセプトとして、糖尿病の病態に応じて治療薬を選択することを最重要視し、エビデンスと我が国における処方実態を勘案しております。具体的には、Step 1として病態に応じた薬剤選択、Step 2として安全性への配慮、Step 3としてAdditional benefitsを考慮するべき併存疾患をあげ、Step 4として考慮すべき患者背景をあげて、薬剤を選択するアルゴリズムになっています。
本アルゴリズムが、我が国での糖尿病診療の向上に貢献することを期待するとともに、新しいエビデンスを加えながら、より良いものに進化し続けていくことを願っています。
以下は、アルゴリズムのまとめです(引用先)
ステップ1 病態に応じた薬剤選択
●非肥満(インスリン分泌不全を想定):DPP-4阻害薬、BG薬、α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)、グリニド薬、SU薬、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、イメグリミン
●肥満(インスリン抵抗性を想定):BG薬、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬、チアゾリジン薬、α-GI、イメグリミン
ステップ2 安全性への配慮
ステップ3 Additional Benefitsを考慮するべき併存疾患
●慢性腎臓病:SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬
●心不全:SGLT2阻害薬
●心血管疾患:SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬
ステップ4 考慮すべき患者背景
本アルゴリズムでは、肥満度(BMI)とインスリン抵抗性には正相関があるため、肥満度が高い症例ではインスリン抵抗性の 2 型糖尿病の病態への寄与度が高いと考えられ、それに合った薬剤選択を考慮すると書かれています。BMI とウエスト周囲長とで内臓脂肪蓄積過剰の有無をより正確に判断することができるという考えには賛成です(男性 85 cm 以上,女性 90 cm 以上)。
「肥満症例における薬剤の候補としては、インスリン分泌非促進系のビグアナイド薬、SGLT2 阻害薬、チアゾリジン薬などに加え、インスリン分泌促進系薬剤の中では体重減少効果が期待できるGLP-1受容体作動薬やインスリン抵抗性改善作用を併せ持つイメグリミンも良い適応であると考えられる。」と書かれており、DPP-4阻害薬は適応に書かれていません。これも賛成です。
上の序文に書かれているように、レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)の調査によると、2型糖尿病患者への初回処方の約65%をDPP-4阻害薬が占めていることが分かった(J Diabetes Investig. 2022; 13: 280-291.)そうです。このような状況が学会を焦らせたのだと思います。
つまり、肥満の2型糖尿病患者への初回処方でDPP-4阻害薬を処方する医者はヤブだということです。
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