医療素人「陰謀論者」とのTwitter応酬合戦

お薦めしません!医療素人とのTwitter応酬合戦、その全貌がコレ
以下は、CareNetという、医療関係者向けのサイトに医療ジャーナリストの村上和巳氏が書かれた記事の抜粋ですが、陰謀論者とのTwitterのやり取りがいかに空しいかについて良く書かれています。私も同じような経験をFacebookでしたので、とても参考になります。


先日、新型コロナウイルス感染症ファビピラビル(商品名:アビガン)の「内情」について書いたが、その直後、私がTwitterであるツイートをしたことがきっかけで自ら「素人」と言ってはばからない人と応酬となった。

Twitterをやっている人は分かると思うが、何も知らない、あるいはやや狂信的とも言っていい人とやり取りをするのは疲れるもの。私も大概は無視するのだが、あまりに誤った情報だと何かは返したくなる。その結果が今回の事態だが、医療知識のない人とやり取りをするというのは、こういうものなのだという参考事例として今回紹介したい。

さて、きっかけとなった私のツイートは、塩野義製薬が開発中の新型コロナの3CLプロテアーゼ阻害薬の催奇形性に関するもの。この薬に期待を寄せる人は未だ十分に有効性を示せていないイベルメクチンとアビガンに期待を寄せる人たちと一部と重なる。しかし、以前も触れたように動物実験でイベルメクチンは最高推奨用量の0.2倍、アビガンは臨床曝露量同程度以下で催奇形性が認められている。そうしたことをこの人たちは知らないのだろうか? という疑問を投げかけるツイートだった。

ツイートした当初はほとんど反応はなかったが、それから1週間後にある人から返信が付いた。匿名アカウントで年齢・性別も分からないので、この人をAさんとしておこう。端的に言えばアビガン推しの人である。

リプライの大意は「アビガンの投与期間中避妊すれば問題ないし、やはり新型コロナの適応を持つバリシチニブだって催奇形性はある。またアビガンは米軍、台湾、日本では備蓄もされているし、海外では承認製造されている」。

まあ、よくありがちな反応である。ちなみにバリシチニブに催奇形性があることは承知しているし、Aさんが言う米軍、台湾、日本での備蓄は抗インフルエンザ薬での適応であり、情報を混同している。

そこでバリシチニブは催奇形性があるとはいえ、ラットで臨床用量の2.3倍、ウサギで6.3倍と、ファビピラビルはそれと比べてかなり低用量で認められ、この点で安全性は低いこと、新型コロナに対するアビガンはカナダ、クウェートでの二重盲検試験で有効性は確認されていないと指摘する引用ツイートを送った。

過去の経験上、こうした1回目の反応後に相手が沈黙して終わりなのだが、返信があった。曰く「アビガンの製造国は増えてますよ」という。

この話はごく一部の国のジェネリック企業が臨床研究用などで製造していることなのだが、事細かに説明するのも面倒だったので「そうした国はいずれも日米欧3極と比べて医薬品の承認審査の厳格さを欠く国々。代表例がタイで、タイは保健省の一存で重症患者にアビガンを用いようとしているものの、エビデンスはなく、日本が真似すべきではない」という趣旨で引用リツイートをした。

しかし、また返信があった。「海外では、主要国でもアビガン暫定承認と治験、備蓄が進められてます。アメリカでも製造されています」(ツイート内にカナダなどいくつかの事例のツイートを引用)

引用ツイートのうち、カナダの出典を辿って思わず笑ってしまった。これはカナダで新型コロナの効能を謳ったアビガンの違反広告事例を紹介しているもの。どんな薬がどんな違反広告をしたかが表になっているのだが、違反広告内容の紹介をカナダが公式にファビピラビルを評価したと勘違いしているらしい。

さらに引用ではイギリス、ドイツなども挙げているのだが、前者は単純に医師主導治験の話。後者は新型コロナの治療薬に関して「承認済み」「承認審査中」「臨床研究中」の区分で列挙し、ファビピラビルは単に臨床研究が行われている分類。ところが、Aさんは現地当局が承認審査プロセスに入っていると誤読している。

なので私はそうした内容やAさんが製造国が増えていると言っているものは、ファビピラビルの特許失効を受け、第三世界の一部ジェネリック企業が抗インフルエンザ薬としてや臨床研究用に供給するため細々と製造しているだけで、新型コロナ治療薬としての承認国は増加しておらず、承認に足るだけの十分なデータは未だ存在しない旨を返信した。

これでやり取りも終わるだろうと思った。しかしAさんはめげずに「日本でアビガンは、利権で抑えられたと思いますよ」と、あるツイートを引用しながら返信を寄せてきた。でました、利権という名の陰謀論。ちなみにAさんが引用してきたツイートは、ワクチン否定派の中ではそれなりに有名な在米日本人のツイートで、先日、本連載でも触れたノババックスの組み換えタンパクワクチンの承認について「みんなアメリカでは承認されていないのは知っているかな?」という内容。

アメリカで未承認は事実だが、それはアメリカでの申請が日本から2ヵ月遅れの今年2月であるからと考えれば説明がつく。また、すでに欧州連合(EU)では承認済みだ。とAさん宛にその旨を返した。

するとさらに返信。「未接種以外の治験してますか?」という。要は日本国内でノババックス製ワクチンを3回目のブースター接種に使おうとする動きがあることへの疑念らしい。もっともここで明確にファビピラビルから「ゴールポスト」が動いてきた。

確かにmRNAワクチンやウイルスベクターワクチンを接種済みの人へのブースター接種に関する企業治験データはない。しかし、イギリスからはすでにファイザー製ワクチンやアストラゼネカ製ワクチンの接種者に対するブースター接種の臨床研究が報告されており、数字だけを見ると同一種のブースター接種よりも抗体価はやや低いものの、明らかにブースター効果は見て取れる。原理的には問題なしの話で引用リツイートを返した。

ややうんざりしていたので、ついでに「そろそろつぎはぎであれこれ指摘するの止めたほうが良いですよ。どれも根拠薄弱なものばかりです」と付け加えた。

しかし、返信は止まない(笑)。

またもや別のツイートを引用しながら、新型コロナへのファビピラビル投与事例のメタアナリシスで有意な効果が認められた、との返信である。しかし、その中身は観察研究もどきやかなり設定の違うランダム化臨床試験を無理やりプールしているもの。ということで指摘のメタアナリシスは「なんちゃってメタアナリシス」だとの指摘で返した。

また、返信が返ってきた。曰く「二重盲検しか認めないんですね」と。加えてAさんはファイザー製ワクチンの治験で、一部の治験受託機関の管理が甘く、盲検が被験者にばれていた可能性がある事案が明らかになったことを付記してきた。これはBMJ誌でも紹介された話だ。

この事案は記事を読んだ人もいるだろうが、問題となった受託機関が担当したのは4万例を超える同ワクチン被験者のうち1,000人程度で、かつ盲検がケースによって見れていた可能性があるに過ぎないというもの。このこと自体がワクチンの有効性や安全性に影響を与える可能性は低い。私は引用ツイートでさらに以下のような趣旨を返した。

「二重盲検しか認めないのは原則として当然です。それが現時点で最も科学的に信頼度の高い試験方法です。それを否定するなら、抗インフルエンザ薬としてのアビガンも存在意義を失いますが、それで良いんですか? 二重盲検の結果として科学的に疑義が生じた場合は都度検討すれば良い話です」

しばらくして「レムデシビルは、二重盲検結果で承認されてましたか?」との返信。おいおい。レムデシビルの特例承認の根拠となったACCT-1試験は明確に二重盲検試験だ。その旨を指摘するついでに「これは添付文書にですら書いてある情報ですよ。ちゃんと調べてますか?」と追加して引用リツイートした。というか、調べていないことは明らかだろう。

まあ、これでそろそろ止むだろうと思った私が甘かった。さらにAさんから返信。「WHOから、指摘ありましたよね」と。ああ、でました。それね。要は一時期、WHOが非常に粗い設定だった「SOLIDARITY試験」に基づき推奨しない見解を出した件だ。この見解は専門家からも批判され、当事者のギリアド社ですら公式に反論をリリースしたほど。後にデータが蓄積されたことでWHOも見解を修正している。私はさらに返信した。

「また、きちんと調べずにモノを言うんですか? 承認後にWHOはよりレベルの低い『SOLIDARITY試験』に基づき推奨しない見解を出し、専門家からも批判されました。しかし、後のデータ蓄積などで、この見解は修正されています。あれこれ言う前に勉強すべきです」

もうこれで何か返信があっても反応しないと一旦は決めた。しかし、このツイートにある方から「いいね」が付いた。相互フォローとなっていて面識もあるS先生からだ。医師の世界で知らない者はいないと言ってもいいパワフルな人だ。となると、もはや相手が黙るまで止めるわけにはいかない(笑)。

そしてやはり返信があった。

「そのようですね」とWHOの見解修正に関する別の人のツイートを引用。珍しくおとなしくなったと思いながらも、「ワクチンに関してどう思われますか?」と、どこかのTVが報じた国内での新型コロナワクチン接種後の死亡者数について触れた動画を引用してきた。次なる「ゴールポスト」変更の地雷付きだ。

これにまともに付き合っていたら持たない。なんせ多くの方がご存じのようにアビガン問題と違って、ワクチン否定派の陰謀論は、まるで底なしのガラクタ箱のように、意味のない重箱の隅つつきの事案が次々と登場するだけだから。 私もAさんのツイートにイライラしていたので、次のような趣旨で返した。

「いい加減、ヒトに聞いたり、誰かのツイートを都合よく切り貼りするのではなく、自分で英語論文などの原典を調べたりすればいいんじゃないですか? どうやらこれまでのやり取りを見ていると英語論文などの原典に当たっていませんよね? 英語も十分に読めているようではない感じですが」

腹立ちまぎれにこの辺で勉強したほうが良いですよ、と大学受験生向け英単語参考書のリンクでも貼ろうと思ったがさすがにやめておいた。

するとまた返信。もういい加減にしてくれ!アメリカで裁判所の求めに応じてファイザー社が新型コロナワクチンに関する一部の文書を公開した一件を送ってきた。私もこの情報はすでにちらちら眺めていたが、はっきり言って目新しい情報はほとんどない。一部のワクチン否定派がまさに重箱の隅を突いてフレームアップしているだけである。

そして私がきちんと勉強せよと言ったことに対するネット民にありがちな反応、「素人ですが、何か?」と付け加えてあった。これに対して以下のような趣旨の引用ツイートをした。

「素人だから誤った情報を流布することが倫理的に許されるわけではありません。公開アカウントで発信するなら物事の事実関係は確認すべきです。カナダのアビガン違反広告の件を公的にアビガンの効能を認めたかのように発信したことをはじめ誤った情報をツイートしてますよね」

なぜかこの時は一連のやり取りの中で最も多い「いいね」が付く。また、S先生も。あー、やっぱりまだ止められないんだなと思ってしまった。しかし、これでAさんからの返信は打ち止め。

ここでほぼ丸2日間の応酬が終わった。

しかし、このことを通じて改めて思ったのは、何かを固く信じている人ほど、さまざまな情報をあれこれ都合よく引用するという現実。コロナ禍が続く限り、こうしたことも永久機関のように続くのかと思うとうんざりである。


私の場合は、Facebookで元論文まで引用して、相手が書いたことが完全な誤解であることを証明して説得しようとしたら、ブロックされてしまいました。その後はその人の発信は見えないのですが、アビガンからイベルメクチン、反ワクチンから今はなんと「親ロシア、反バイデン」の情報を発信していることを友人から知りました。ホントに「永久機関」です。

マグロは泳ぐのを止めたら死ぬらしいですが、陰謀論者は陰謀論を撒き散らすのを止めたら死ぬとでお思っているのかもしれません。

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