うま味調味料は体に良くないという悪評が広がったのはなぜなのか?
以下は、記事の抜粋です。
グルタミン酸ナトリウム等を主成分とする「うま味調味料」は、その安全性が確認されており、通常の使用であれば健康への影響は心配する必要はないと、東京都福祉保健局のホームページにも記載されている。
にもかかわらず、未だ体に悪いという噂が世界中でまことしやかに囁かれている。
なぜこのような悪評が広まってしまったのか? それはある論文が発端となったようだ。のちにこの論文はデマであることが明らかとなったのだが、それがセンセーショナルに報道され、収集がつなくなってしまったという。
グルタミン酸ナトリウム(monosodium glutamate, MSG)は、池田菊苗氏によって1908年に発見された。彼は昆布の主成分がグルタミン酸塩であることを発見。これを単離して特許を申請した。こうして商品化されたのが、あの「味の素」だ。
ところが国際商品情報評議会の調査によると、アメリカでは10人に4人がMSGを意図的に避けているという。旨味が体に悪いと信じているからだ。一体なぜそんな悪評が立ってしまったのだろう?
ことの発端は、Robert Ho Man Kwok医師が1968年に『New England Journal of Medicine』に投稿した論文だ。1960年代に中華料理を食べた後、少数のアメリカ人が体調不良を訴えた。脱力感・しびれ・発汗・頭痛などの症状だが、大部分は悪化することなくしばらくすると消失した。Kwok氏はこの症状を「中華料理店症候群(Chinese restaurant syndrome)」という名で紹介し、MSGが原因であると結論づけた。この論文がMSGの悪評の発端となったのだが、実はこの論文はデマであることが後に明らかとなる。
コルゲート大学のJennifer LeMesurier氏らは2017年にこの問題を取り上げ、MSGに害があるという証拠は得られず、この悪評が中国人に対する偏見と関係しているとの論文を発表した。
いずれにせよ、論文が人騒がせだったことは間違いない。世間は強く関心を惹かれ、数週間のうちにアメリカの保健当局は、旨味成分の危険性について警鐘を鳴らすようになった。新聞各紙もこぞってこの話題を取り上げ、「中華料理のジンクスが特定」(1968年7月14日 ワシントンポスト紙)などという見出しが躍った。
医学誌に掲載されたたった1本の論文が、これほどマスコミや世間から注目された理由は不明だ。しかしLeMesurier氏は、その背景にはアジア人やその文化に対する人種差別的な偏見があったのではと推測している。
あるアメリカの疫学調査によると、調査対象3,222人のうち「中華料理店症候群」と類似の症状を発症した人は1.8%いたが、中華料理と関連付けることができたのは0.19%で、メキシコ料理やイタリア料理と関連付けられたケースよりも少なかったという。ごく最近でも、コロナウイルスは中国のコウモリを食べる習慣から広まったとの憶測が流れたが、これも同じようものだろう。
グルタミン酸ナトリウムは科学的にも調査されているが、それが健康に悪いことを裏付ける証拠はほとんど見つかっていない。これを食べた後に見られる副作用は、短期的かつ軽いもののようだ。しかも、そうした症状が出るのは、MSGが入った料理を食べた後ではなく、実験のためにMSGのみを大量に摂取した時だけだ。
ほとんどの保健当局は、MSGは食べてもまったく問題ないことを認めている。米国食品医薬品局もまた1990年代にMSGについて独自に調査を行ったが、結局安全であると結論づけた。
こうした事実にも関わらず、MSGから悪評が拭い去られることはない。アメリカには「MSGフリー」を謳うレストランもある。50年以上前のデマ論文の余波は、未だに続いているようだ。
私も学生の頃、”Chinese restaurant syndrome”の話を聞き、この記事を読むまで「味の素」は体に悪いと思っていました。結局、ナトリウムを含んでいるので塩と同じレベルのリスクだと思います。
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