以下は、記事の抜粋です。
ワクチンで禁煙できるようになる日がいずれ来るかもしれない。マウスを用いた研究で、1回のワクチン注射でニコチン中毒を治療することに成功した。
このワクチンは、脳にニコチンが到達するのを防ぐことによって作用を発揮するもの。血流に入り込む前にニコチンを除去する抗体を肝臓で持続的に産生させる。「慢性的なニコチン中毒を治療する最善の方法は、ニコチンが生物学的作用をもたらす前に除去することである。再び喫煙をしても喜びが得られないことがわかれば、禁煙することができる」と、研究グループのRonald Crystal氏はいう。
今回の研究では、作製したニコチン抗体を無害のウイルスに挿入した。このワクチンは肝細胞を標的とするよう作製されたもので、それによってニコチン抗体を持続的に産生することを可能にした。これをマウスに投与すると、高濃度のニコチン抗体が産生され、ニコチンの脳への到達を阻止できることがわかった。
研究グループによると、このワクチンは安全であり、将来的には喫煙経験のない人のニコチン中毒予防にも利用できる可能性があるという。
元論文のタイトルは、”AAV-Directed Persistent Expression of a Gene Encoding Anti-Nicotine Antibody for Smoking Cessation”です(論文をみる)。
研究者らはアデノ随伴ウイルス(AAV: adeno-associated virus)ベクターを用いて、抗ニコチン・モノクローナル抗体を大量かつ持続的に発現する発現系を構築しました。投与した発現ベクター量に依存して抗体の血中濃度が増加しました。また、発現された抗体はニコチンに対して高い特異性と親和性を示したそうです。
抗体は全身投与されたニコチンから脳を守り、脳内のニコチン濃度をコントロールマウスの約15%にまで減らしました。また、抗体発現ベクターを投与すると、ニコチンによる動脈血圧、心拍数、運動などの変化はブロックされました。つまり、1ショットの発現ベクター投与によって、ニコチンの生理作用がブロックされました。
論文は、このような作用がヒトでも発揮されれば、ニコチン抗体発現ベクターはニコチン中毒の効果的な予防ツールになるだろうとしています。
ニコチン受容体に対する有効な低分子阻害薬がないこともこのような研究が行われる理由だと思われます。ただ、喫煙が習慣化したヒトの脳内ニコチン濃度が減少すれば、もっとニコチンが欲しくなって、余計にタバコを吸ってしまう可能性があります。それで、ニコチン中毒になる前の子供に予防的に投与するのでしょうか?
AAVベクターは安全性が高く、非分裂細胞にも効率良く遺伝子導入でき、遺伝子発現が長期間持続することから遺伝子治療用ベクターとして期待されています。しかし、「ワクチン」とよんで気軽に投与するのは怖い気がします。どうせなら、禁煙のために抗ニコチン抗体を発現するよりも、がん治療のためにイピリムマブ(ipilimumab、Yervoy®)などの抗体医薬を持続的に発現する方が良いのではなどと考えました。
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