アスピリンでがんの転移を抑制、豪州研究論文
以下は、記事の抜粋です。
アスピリンなどの薬は、腫瘍に栄養を送り込む「補給ライン」の遮断を助けることにより、がんの転移を阻害できる可能性があるとする論文が、2月14日のCancer Cell誌に発表された。
これまでも、アスピリンなどの非ステロイド性抗炎症薬にがんの転移を抑制する可能性があるとの指摘はあったが、その仕組みは分かっていなかった。今回、メルボルンのPeter MacCallum Cancer Centreの研究チームは、がんの転移に重要な役割を果たすリンパ管が、がんに反応する仕組みの研究で進展があったとしている。
研究チームは、リンパ管内の細胞の研究により、ある特定の遺伝子ががんの転移時には発現するが、転移していない間は発現しないことを見出した。解析の結果、この遺伝子が体中のリンパ管で炎症と拡張を起こす可能性が示唆され、腫瘍の成長と転移経路との関連が示された。
いったん拡張されたリンパ管は、転移巣への「補給ライン」としての能力が増し、がん細胞が転移する効率的なルートになってしまう。以上のことから、リンパ管の拡張を抑制する働きを持つアスピリンは、「リンパ管の拡張を抑えることでがん細胞の拡散抑制に効果的に働く可能性がある」と、研究者は述べている。
前年、The Lancet誌には、アスピリンを毎日服用すると大腸がん、前立腺がん、肺がん、などの発症率が低減するとした研究結果が発表されている。現在、多くの医師が、心臓病、脳血栓などの血流障害のリスクを下げる目的で、アスピリンの服用を推奨している。ただしこれには、胃疾患のリスクが高まるという欠点もある。
元論文のタイトルは、”VEGF-D Promotes Tumor Metastasis by Regulating Prostaglandins Produced by the Collecting Lymphatic Endothelium”です(論文をみる)。
腫瘍増殖がプロスタグランディン(PG)で制御されるという話はこれまでもありましたが、本論文は腫瘍の転移もPGで制御されるという話です。また、腫瘍の産生するVEGF (Vascular Endothelial Growth Factor)が腫瘍の近くの血管やリンパ管を増やすという話はありましたが、本論文はこれらの増殖因子が、腫瘍から離れたリンパ節近くのリンパ管も制御するという話です。
論文では、VEGFを産生する腫瘍は、下図のように、集合リンパ管上皮細胞でのPG(特にPGE2)の産生を増やし、これが集合リンパ管の径を大きくすることで腫瘍細胞の転移を促進するとされています。また、このPGE2産生の増大は、VEGFがPGDH (15-hydroxyprostaglandin dehydrogenase)というPG分解の律速酵素の発現を著明に低下させた結果だとされています。
リンパ管上皮でPGを産生する酵素はCOX-2のようで、実験ではアスピリンではなく、COX-2に対する選択性の強いetodolac(エトドラク、ハイペン®、オステラック®)というNSAIDを使っています。エトドラクは、非常に古い薬ですが、偶然COX-2選択性を示すことがわかったおもしろい薬です。
VEGFが集合リンパ管を拡げるメカニズム(Cancer Cellより)
コメント
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takさん、はじめまして。
いつも更新楽しみにしています。
私は生物系の大学院生で、Shhシグナルと発癌の関連を研究をしている者です。
私の大学では疾患に近い研究(薬理、病理など)ができないので、
こういった論文は非常に面白いです。
就職活動中でなかなか論文が読めず、
なおのこと助かっています笑
薬学のプロの方の視点・意見は、
とても参考になります。
お忙しいとは存じますが、これからも更新頑張ってください!