運動せずに筋肉つくる薬、熱中症予防の効果も? マウスの悪性高熱症モデルに効果

運動せずに筋肉つくる薬、熱中症予防の効果も 米研究

以下は、記事の抜粋です。


4年近く前に発見された「AICAR」は運動をしないマウスに筋肉をつけることのできる薬だが、この薬に熱中症を予防する効果もあったとする論文が、1月8日のNature Medicineに掲載された。

AICARは2008年、まったく活動をしない実験用マウスの筋肉を発達させ、持久力を高める効果が発見された後、「カウチポテト薬」と呼ばれるようになった。現在は、深刻な筋肉関連の疾患や代謝障害などの治療薬として研究が進められている。

研究者らは論文で、マウスにおける悪性高熱症と呼ばれる疾患の予防に、このAICARが役立つことが偶然発見されたと述べた。悪性高熱症は、RYR1遺伝子の欠陥により引き起こされる。この遺伝子はマウスも人間も保有している。

ベイラー医科大学のスーザン・ハミルトン(Susan Hamilton)教授(分子生理学)は「AICARをマウスに投与すると、熱による死亡を予防する効果が100%あった。活動の10分前未満の時点で投与した際にも効果があった」と語った。

この発見は、熱に敏感な若いスポーツ選手や砂漠に派遣された重武装した兵士らに対する予防措置として活用できる可能性がある。RYR1遺伝子の異常は3000人に1人の割合で発生するが、理論的には将来の薬剤はRYR1欠陥を持たない人々にも効果を持つ可能性があるという。

「RYR1の変異した個人が熱中症にかかるときに起きるプロセスは、RYR1変異のない個人に起きるプロセスと類似している可能性が高い」と、ニューヨークにあるロチェスター大学のロバート・ダークセン(Robert Dirksen)教授(薬理学)は説明した。


悪性高熱症の病因は、骨格筋の筋小胞体にあるリアノジン受容体(RYRl)の変異によるカルシウム代謝異常で、吸入麻酔薬や脱分極性筋弛緩薬によって誘発される病気です。常染色体優性遺伝を示し、日常生活ではほとんど症状はみられません。

発症すると、迅速な診断・治療が行われない場合致死的となります。発生頻度は全身麻酔症例50000-150000人に1人と極めて稀ですが、RYRl遺伝子検索から2000人に1人は素因があると推察されています。近年、完全静脈麻酔の普及に伴い、発生頻度は減少していますが、死亡率は10-15%です。

吸入麻酔薬は筋小胞体からのカルシウムによるカルシウム放出(CICR)を促進させます。この結果、細胞内Ca濃度が上昇して筋収縮を起こし代謝を充進させますが、RYR1に特定の変異があるとこれが暴走し、骨格筋細胞内で02とATPとグリコーゲンが枯渇し、C02と乳酸と熱が過剰に産出されると考えられます。

論文では、ヒトの悪性高熱症にみられるRYR1遺伝子の変異と同等の524番目のアミノ酸がチロシンからセリンに代わったY524S変異をノックインしたマウスを用いています。このYSマウスは、37℃の環境に15分曝すと死んでしまうそうです。このマウスにAICARという薬物を600mg/kg投与すると痙攣死を防ぐということです。

上の記事にある筋肉増強効果はAMPによって活性化されるAMPKというリン酸化酵素を介しているそうですが、AICARの抗熱効果はAMPKを介さず、RYR1からのカルシウム・リークを減らし、酸化ストレスやニトロソ化ストレスの抑制を介していると推測しています。論文では、AICARは悪性高熱症の治療に使える可能性があるとは書かれていますが、熱中症予防に使えるとは書かれていません。

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