以下は、朝日の記事の抜粋です。図もついています。
ノーベル賞を受賞した島津製作所の田中耕一フェローらのグループは11月8日、血液1滴からさまざまな病気の早期診断ができる技術を開発したと発表した。がんや生活習慣病などの病気になると、抗原が血中に流れるが、微量でも漏れなく捕まえる抗体をつくることに成功した。3年以内を目標に臨床研究の実施を目指すという。
従来の抗体は、ほぼ固定された腕の部分に抗原が結合するのを待つような仕組み。田中さんらはバネ状の人工物(ポリエチレングリコール)を組み込み、前後左右に腕が伸びて抗原を幅広く捕まえるよう設計することに成功した。
この結果、多くの抗原をしっかり捕まえることができるようになり、抗原と抗体の結合力も高まった。アルツハイマー病の発症にかかわる抗原を捕まえる抗体にこのバネを組み込むと、従来の100倍以上の結合力を示したという。
今回開発された抗体の仕組みのイメージ
以下は、読売の記事の抜粋です。
病気に特有のたんぱく質を、従来の100倍以上の感度で血液から見つけ出す技術の開発に、ノーベル賞受賞者の田中耕一フェローらが成功した。血液1滴での診断につながる成果。日本学士院発行の英文科学誌電子版に11月11日発表する。
体内では、通常はないたんぱく質(抗原)が侵入すると、これと結合して攻撃する免疫物質(抗体)が作られる。抗体はY字形で、2本ある腕のうち1本で抗原と結合するが、田中フェローらはその構造を人工的に改変。Y字の根元部分に、弾力性のある高分子化合物「ポリエチレングリコール」を挿入した。これをバネとして腕が柔軟に動き、2本同時に抗原と結合できるようにした。
アルツハイマー病に関わるたんぱく質の断片を抗原として、新開発の抗体を試したところ、通常の抗体より100倍以上、強力に抗原をつかまえた。田中フェローは「病気の早期診断や、抗体を用いた薬開発に結びつく技術」と話している。
元論文のタイトルは、”Flexible antibodies with nonprotein hinges”です(論文をみる)。確かに論文のタイトルは「フレキシブルな抗体」なのですが、論文中で紹介されているものを抗体と呼ぶことに私は抵抗を感じます。
今回の研究では、抗体のFab領域の代わりに 化学合成した15アミノ酸のベータアミロイド(Aβ)を用い、非ペプチド性リンカー(PEG)を用いて、培養細胞で作成したFc領域と試験管内で結合させて「Aβ/PEG/Fc」を作成しました。Aβに特異的に結合するモノクローナル抗体とこの「Aβ/PEG/Fc」との結合を調べたところ、元のAβよりも抗体に対する結合能力が100倍以上に向上したということです。
この向上の理由は、非ペプチドリンカーの自由度が高いためだと考察しています。さらに、これらの結果から、抗体のFabとFcの間のヒンジ領域を非ペプチド構造にすれば、抗原との結合も飛躍的に向上するはずだとしています。
私は、「Aβ/PEG/Fc」は「抗体」というよりも、抗体との結合性を向上させた「抗原」だと思います。Aβの部分を抗原と結合するFabに代えた場合、抗原との結合能力が100倍以上向上した「抗体」ができるかどうかの保証はありません。なぜこの段階で発表したのか不思議に思います。
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