アスピリン投与は遺伝性(リンチ症候群)大腸がんの発症を予防する

Aspirin prevents colon cancer in high-risk group
以下は、記事の抜粋です。


アスピリンが遺伝性大腸がん家系の人々の大腸がんリスクを予防できることが明らかになった。これまでにもアスピリンが大腸がんや他のがんを防ぐことを示唆する研究はあったが、10月28日にLancet誌に発表された論文は、この仮説を証明するための研究デザインが非常に優れている。

研究グループは、遺伝的に大腸がんになりやすいとされているLynch症候群の患者861例を 10年間調査した。Lynch症候群の発症頻度は1000人に1例で、大腸がんの3-5%を占めている。

ランダム化臨床試験では、600mg/日のアスピリンを摂取する群とプラセボを摂取するコントロール群に分けられ、アスピリンによるがん予防効果は摂取後5年後から認められた。5年目では大腸がんの発症が約半分になったという。

ただし、アスピリン摂取には消化性潰瘍や脳卒中などのリスクもあるので、患者はリスクとベネフィットを勘案して摂取を決めなければならない。遺伝子変異を持たない一般人が大腸がん予防のためにアスピリンを摂取するのは、まだ勧められない。


元論文のタイトルは、”Long-term effect of aspirin on cancer risk in carriers of hereditary colorectal cancer: an analysis from the CAPP2 randomised controlled trial”です(論文をみる)。

リンチ症候群(Lynch Syndrome)は、若年での大腸がん発症リスクが高いことを特徴とし、同じく遺伝性大腸がんの1つで腺腫性ポリープの多発を主徴とする家族性大腸腺腫症(FAP)と区別するためにHereditary non-polyposis colorectal cancer (遺伝性非ポリポーシス大腸がん、HNPCC)ともよばれます。

リンチ症候群の原因は、生殖細胞系列でのミスマッチ修復遺伝子(6種類のmismatch repair (MMR)遺伝子、MSH2・MLH1・MSH6・PMS1・PMS2)の変異です。常染色体優性遺伝形式を示し、子供に50%の確率で遺伝します。大腸がん以外にも子宮内膜、卵巣、胃、小腸、肝胆道系、腎盂・尿管などのがん発症リスクが高まるとされています。平均発症年齢は43-45歳で、MMRの遺伝子変異を持つ人では、約80%が生涯の間に大腸がんを発症すると報告されています。

大腸がんの発症が約半分に抑えられたというのはすごい予防効果です。メカニズムは、COX2阻害によるのではなく、MMR変異によってがん化した細胞のアポトーシスをアスピリンが促進するからではないかと著者らは考えているようです。

メタ解析や観察的研究では、アスピリンのがん予防効果は報告されていましたが、ランダム化臨床試験でがん予防効果を示したのは、この研究が最初だそうです。今後は、75mg/日ぐらいのアスピリン量でも効果があるのか?、一般人でもアスピリンの服用はがん予防効果があるのか?などが問題になると思われます。

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