以下は、記事の抜粋です。
文部科学省は10月26日、大学院で修士論文を作成しなくても修士号を取得できるよう省令を改正する方針を決めた。博士号取得を目指す大学院生が主な対象で、論文の代わりに専攻だけでなく関連分野も含めた幅広い知識を問う筆記試験などを課す。大学院の早い段階から専門分野に閉じこもるのを防ぎ、広い視野を持つ人材を育てる狙い。来年度から適用する。
文科省は大学院設置基準を改正。「博士論文研究基礎力審査」と呼ぶ試験に合格すれば修士号を得られるようにする。審査は筆記と面接で、博士課程で学ぶのに必要な専門分野と関連分野の知識、研究を自力で進める力などを判定する。
修士課程2年の春から夏に筆記、冬に面接を行うことを想定。博士課程は別の大学院に進みたい場合、入試も受ける必要がある。博士課程に進まず就職する大学院生も多いことなどから、修士論文の提出を条件とする従来方式も認める。
修士論文を実質的に不要にするのは広い視野と能力を持った人材を育てるのが狙い。同省は審査の導入に合わせ、修士課程の教育内容の見直しを各大学に促す。院生が分野を超えて複数の研究室で学べるようにし、専門だけでなく関連する分野の知識も身に付けさせる。将来的には5年一貫教育で博士号の取得を目指すコースを普及させたい考えだ。
以前このブログの関連記事で紹介した中央教育審議会答申が具体化することになったようです。大学院博士課程で、院生が1人の教員に師事して研究を手伝いながら指導を受ける「徒弟制度」に対する批判や、特定のテーマに絞り込んだ修士論文の廃止などがそのまま生きています。
今回の記事にも、「博士課程を終えても産業界から『専門分野には詳しいが応用が利かず、使いにくい』と評価されてきた。」と書かれており、以前の「博士課程修了者が民間企業で敬遠される傾向があり、国際社会で活躍できる人材育成も不十分という批判が出ていることから、企業などが求める人材育成を目指す。」と同様の「改正理由」が書かれています。
院生が、複数の研究室で指導を受けるように求めている点や、修士論文を原則的に廃止、代わりに幅広い分野について「クォリファイング・イグザム」の導入を求めている点も同じです。
しかし、ごく一部の大学院を除いて、多くの学生は博士課程には進まず、修士課程あるいは博士前期課程修了で就職します。また、修士課程修了者の就職率はそれほど悪くはなく、企業も研究内容を書かせたり、プレゼンをさせたりしています。ここに上記のような「改革」を導入すれば、かなりの混乱が予想されます。
企業風土がまったく異なるアメリカの大学院制度をこのような形で真似しても、日本の企業が博士課程修了者を敬遠する傾向は変わらないと思います。改革によって、博士課程へ進学する学生の専門知識や研究力が低下し、その結果ますます企業が敬遠するだけでなく、大学の研究レベルも沈むという悲惨な結果に終わらないことを願います。
そもそも、「関連分野も含めた幅広い知識」などというものを大学や大学院で学ぶという発想自体が時代遅れの感じがします。とりあえず、このような「改革」は「リーディング大学院」だけに適用し、その結果をみてから他の大学への拡大を考えるのが無難だと思います。
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