Exome sequencing supports a de novo mutational paradigm for schizophrenia
以下は、論文第1パラグラフの抜粋です。
統合失調症は遺伝性が高いにもかかわらず、家族歴がない(孤発性)患者の占める割合が高い。研究者らは、53例の孤発性症例と22例の健常例とそれぞれの両親(計225例)のエクソーム配列決定を行うことで、コードするタンパク質の変化を来すような新生(de novo)突然変異の有無を調べた。
その結果、27例に40個の新生突然変異を同定した。これらの中には、統合失調症素因として知られている22q11.2微小欠失領域に存在するDGCR2遺伝子の破壊変異も含まれていた。孤発性ではない遺伝的変異と比較して、今回明らかになった新生突然変異は、コードするタンパク質のアミノ酸配列変化をひきおこして構造や機能に影響を与えるものが多かった。
以上の結果は、統合失調症において新生突然変異が重要な役割を果しており、変異の標的となる遺伝子群が多いことを示唆している。これらは、統合失調症が世界中で頻度が多いことや病気が持続性であることを説明できると思われる。
これまで数多くの遺伝子が、統合失調症の原因遺伝子、あるいは関連遺伝子として報告されてきました。関連記事にあげているように、本ブログでもdysbindin-1、DISC1、HB-EGF、Dセリン欠乏仮説などを紹介してきました。
本研究は、孤発性の統合失調症患者のとその両親の全エクソン配列を決定し、遺伝子配列の違いを調べたものです。その結果、特定の遺伝子に変異が集中して認められることはなく、大半はこれまでに統合失調症との関連が報告されなかったシグナル伝達関連遺伝子などに機能破壊変異が認められました。
これらの結果に基づき研究者らは、広範な標的遺伝子群のどれかに新しい機能破壊変異が生じた場合に、統合失調症という症状が現われるという多標的遺伝子仮説を主張しています。統合失調症患者の大半が孤発性であり、孤発性患者の50%以上が新生(de novo、親にはない)突然変異ということです。
近年の研究によると、ヒトは例外的に突然変異率が高いことがわかっています。具体的には、新生児は50-100個の新生突然変異があると言われています。アミノ酸の変化をもたらす変異は1人あたり0.86個だそうです。100人に1人という統合失調症の発症率の高さや難治性であることは確かにこれらの仮説と矛盾しません。また、これまでに報告されたdysbindin-1などの疾患感受性候補遺伝子もすべて新生(de novo)突然変異標的遺伝子であると考えることもできます。
本論文と同様の解析が精神遅滞に対しても行なわれ、やはり広範な標的遺伝子群の新生突然変異が原因であるという報告があります(論文をみる)。このような仮説が正しいとすると、統合失調症の治療は、当分の間対症療法的な治療が中心で、原因療法はできるとしてもごく一部に限られることになります。事実だとすると、治療薬の開発にとっては非常に「不都合な真実」です。
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