5-HT2B受容体のナンセンス機能喪失変異は重度衝動性の素因となる

A population-specific HTR2B stop codon predisposes to severe impulsivity

以下は、論文要約の抜粋です。


衝動性とは、先のことを考えない行動のことであり、いくつかの精神疾患、自殺傾向および暴力行動において重要な特性である。衝動性の原因は複雑なため、衝動性に影響する遺伝子や関連する疾患の同定は困難である。

研究者らは、フィンランド人の創始者集団において非常に衝動性の強い個人群を選び、セロトニンとドーパミンの機能に関連する14個の遺伝子についてエキソンの塩基配列決定を行った。

5-HT2B受容体をコードするHTR2B遺伝子内の終止コドンは、創始者集団由来のフィンランド人に限定して比較的広く認められる(マイナー対立遺伝子頻度> 1%)ことが明らかになった。

HTR2B遺伝子のヒト脳における発現および、衝動性を特徴とする精神疾患とこの終止コドン変異との遺伝学的な関連などが調べられた。

Htr2b遺伝子のノックアウトマウスで衝動的行動が増えたことは、上の予測の妥当性を示唆している。我々の研究は、創始者集団を解析することによって、稀なアリルの複雑な行動表現型に対する影響の同定と追跡が可能であることを示し、HTR2Bが衝動性において重要であることを示している。


この研究で選ばれた衝動性の強い創始者集団のフィンランド人男性というのは、すべてASPD (antisocial personality disorder)、BPD (borderline personality disorder)、あるいはIED (intermittent explosive disorder)の病歴を持つ暴力的な犯罪者です。そして、その犯罪が非常に凶悪なため、逮捕時に入院させた上での法医学的精神鑑定が行われた者ばかりが研究対象として選ばれました。

同定されたHTR2B Q20*という変異は、20番目のグルタミン(CAG)が終止コドン(TAG)に変異したものです。5-HT2B受容体は481アミノ酸からできていますので、このナンセンス変異は機能喪失です。こQ20*変異はフィンランド人だけで見つかっているようです。

強衝動性群228例中17例にQ20*のヘテロのキャリアーが同定され、コントロール群では295例中7例がヘテロのキャリアーでした。これらの人では5-HT2B受容体の発現量は約半分に減少していると思われます(下図参照)。また、上記17例の強衝動性犯罪者が殺人、殺人未遂、放火、暴行などおこした場合の94%に飲酒が伴っていましたので、Q20*だけで衝動性が決まるわけではなさそうです。

本論文によると、薬物乱用で知られているMDMA(3,4-methylenedioxymethamphetamine、「エクスタシー」として知られる)は5-HT2B受容体に結合し活性化するとされています。MDMAは、マウスでは縫線核からのセロトニン放出を誘導し、側座核と腹側被蓋からのドーパミン放出をひき起こし、セロトニン輸送体のリン酸化を増やすことが報告されているそうです。

5-HT2B受容体は、全身に広く分布しています。腸管では過敏性腸症候群(IBS, irritable bowel syndrome)、脳血管では偏頭痛に関係するといわれており、拮抗薬も開発されています。上記の論文の推論が正しいとすると、5-HT2B受容体拮抗薬は血液脳関門を越えないようにデザインする必要がありそうです。

終止コドンの位置(a, b)とQ20*による5-HT2B受容体発現の減少(c, d)(Natureより)

コメント

  1. mikan より:

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    5-HT3Rが関与すると考えられており、5-HT2Bでは無かったのではと思います。ご確認お願いいたします。

  2. tak より:

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    >mikanさん
    5-HT2B受容体はヒト腸管に広く分布し、IBS治療の新規なターゲットであると考えられています。論文もあります。例えば、http://www.raqualia.co.jp/portfolio/5-ht2b.htmlをご覧ください。回答が遅くなり申し訳ありませんでした。

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