びまん性大細胞型B細胞リンパ腫には、2つの分子標的薬(ERK阻害薬とCHK2阻害薬)の併用が有効

Functional and molecular interactions between ERK and CHK2 in diffuse large B-cell lymphoma(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫細胞におけるERKとCHK2との機能的および分子的相互作用)

以下は、論文要約の抜粋です。


非ホジキン型リンパ腫には複数の異なる発がんシグナルが関与している。ERKシグナルは、多くの基質のリン酸化を介して転写と転写後の両方の効果を生じる。

研究者らは、ERK1/2とCHK2との新規分子間相互作用を報告する。CHK2は、2本鎖DNA切断に応答するDNA損傷チェックポイントのメディエーターとして知られている。本論文は、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma, DLBCL)におけるERK1/2とCHK2の共局在と過剰発現を最初に報告するものである。

ERKとCHK2との物理的相互作用は、CHK2の68番目のスレオニンのリン酸化に高度に依存している。ERK阻害薬の同時投与は、ヒトDLBCL移植片モデルと初代培養細胞の両方でCHK2阻害薬の抗腫瘍作用を増強した。

我々のデータは、ERKとCHK2との機能的相互作用の存在を示唆し、ヒトDLBCL治療においてERKとCHK2の分子標的薬併用療法の可能性を支持する。


Chk2は、核内に局在する蛋白質キナーゼで、 N末端側よりSQ/TQドメイン、FHAドメイン、キナーゼドメインという3つのドメインをもっています。細胞がDNA損傷を受けると、ataxia-telangiectasia-mutated (ATM) キナーゼが活性化され、Chk2キナーゼの68番目のスレオニン(Thr68)をリン酸化します。

SQ/TQドメインのThr68がリン酸化されると、SQ/TQドメインとFHAドメインが会合し、Chk2は2量体を形成します。2量体化による分子内あるいは分子間の自己リン酸化によって、Chk2は活性化されます。活性化されたChk2は、癌抑制遺伝子産物p53のリン酸化による安定化、Cdc25のリン酸化による細胞周期の停止、PMLやE2F1のリン酸化によるアポトーシスなどを引きおこすと考えられています。これらの結果から、Chk2はがん抑制遺伝子と考えられていました。

一方、浸潤性膀胱がんでChk2が恒常的に活性化されていることや、外科的に切除した肺がんや乳がん組織では半分以上のThr68がリン酸化されていること、大腸がん細胞でChk2を抑制するとドキソルビシンの細胞殺傷効果が増強されることなどが報告されました。これらの結果は、Chk2は古典的な意味でのがん抑制遺伝子ではないことを示しています。

本研究では、ヒトのびまん性大細胞型B細胞リンパ腫細胞において、Chk2の発現上昇がERK1/2タンパク質の発現上昇と相関し、Thr68のリン酸化依存的にChk2とERKが結合することを見出しました。さらに、Chk2を阻害するとERKが活性化されることを発見しました。これらの結果に基づき、Chk2阻害薬とERK阻害薬を併用するとがん細胞死が誘導され、腫瘍の増殖が抑制されました。

2つのシグナル伝達経路を阻害すると腫瘍増殖抑制効果が高まることをメカにスティックに示した研究は初めてかもしれませんが、関連記事に書いたように、より多くの種類のキナーゼを阻害するdirtyな薬物の方が特異的に阻害する薬物よりも腫瘍増殖抑制作用が強いという話は以前からあります。

dirtyな薬物は副作用も多いので、この論文のように特異的な阻害薬を組合わせるのが良いのかもしれません。今後は、個別のがんにおける遺伝子変異の同定とともに、効果的な分子標的薬や化学療法薬の組み合わせの理論的裏づけが重要な課題だと思います。

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