BCL6 enables Ph+ acute lymphoblastic leukaemia cells to survive BCR–ABL1 kinase inhibition
以下は、論文要約の抜粋です。
チロシンキナーゼ阻害剤(TKI)は、BCR–ABL1や他の発がん性チロシンキナーゼによって発症する白血病患者の治療に広く用いられている。最近の研究は、変異したチロシンキナーゼも阻害する、より強力なTKIの開発に集中している。しかし、効果のあるTKIでさえ、白血病幹細胞(leukaemia-initiating cells, LICs)を根絶することは難しく、最初の治療が成功した後、しばしば白血病が再発する。
本研究では、新規の薬剤耐性メカニズムを発見したことを報告する。これはTKIによる治療に応答する白血病細胞の防衛的フィードバックシグナリングに基づいている。
我々は、 BCL6がこの薬剤耐性経路において中心的役割を果たすことを発見し、BCL6を阻害すると薬剤耐性かつ白血病幹細胞的性質を示す白血病細胞のサブクローンが根絶されることを示した。
急性リンパ性白血病(Acute Lymphocytic Leukemia、Acute Lymphoblastic Leukemia:ALL)は、、リンパ球が幼若な段階で悪性化し、主に骨髄で異常に増加し、急速に進行する疾患です。小児から成人までのどの年齢層にも発生しますが、主に小児に多く、成人での1年間の発症率は約10万人に1人とされています。
ALLの発症原因の多くは不明ですが、一部には特徴的な染色体異常を伴うものもあります。成人ALLの染色体異常として最も多いのは、9番と22番の染色体間で転座(フィラデルフィア(Ph)染色体)が起こるもので、約25%を占めます。この転座の結果、BCR-ABL1融合遺伝子が形成されます(ALLのサイトをみる)。
理論的には、BCR-ABL1融合遺伝子を持つPh+ ALLに対しては、イマチニブやニロチニブなどのTKIが有効なはずですが、実際にはほとんどのPh+ ALLはTKIに耐性を示し、治療当初は有効でも耐性を獲得して再発することが多いそうです。
一方BCL6遺伝子は、び漫性大細胞性リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma, DLBCL)の染色体転座で発見されたがん遺伝子で、zinc fingerモチーフを持ち転写制御因子として機能すると考えられています。約30%のDLBCLにBCL6遺伝子再構成が認められ、BCL6蛋白の発現異常がリンパ腫発生の原因になるとされています。また、BCL6はがん抑制遺伝子p53の発現を抑制することも知られています。
本研究では、Ph+ ALLがTKI耐性を示すメカニズムを明らかにするために、TKI投与によって高発現が誘導される遺伝子としてBCL6を同定しました。上記のように、BCL6のペプチド性阻害薬RI-BPIをTKIと同時に投与すると、Ph+ ALL細胞のTKI耐性獲得が抑制され、同細胞をマウスに移植した場合でもRI-BPIはTKIの効果を著明に増強したことから、BCL6がTKI耐性獲得の主役だと主張しています。
非ペプチド性の低分子BCL6阻害薬も開発されていますので、実際の臨床でもTKIとBCL6阻害薬の組み合わせが有効であることが強く期待されます。
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