Development of Transgenic Fungi That Kill Human Malaria Parasites in Mosquitoes
以下は論文要約の抜粋です。
Metarhizium anisopliaeは蚊の表皮から体内に侵入し、血リンパ(脊椎動物の血液、リンパ液や組織液を合せたものにあたる体液)内で増殖する真菌(カビ)である。我々は、進行マラリア感染において、M. anisopliaeを蚊の体内でマラリア原虫と戦わせるため、血リンパから唾液腺に移動するマラリアの種虫(sporozoites)を標的とする遺伝子組換えM. anisopliaeを作製した。
マラリア原虫に感染した血液を与えて11日後の蚊を、種虫が蚊の唾液腺に結合するのを阻害するSM1(salivary gland and midgut peptide 1)、種虫を凝集させる抗体、あるいは抗菌作用を持つサソリ毒素scorpineのいずれかを発現するM. anisopliaeで処理した。
その結果、これらの処理はそれぞれ、マラリアの種虫数を71%、85%、90%減少させた。さらに、[SM1]8(SM1の8回リピート)とscorpineの融合タンパクを発現するM. anisopliaeは種虫数を98%も減少させた。これらの結果、Metarhizium属真菌を用いた感染阻害の開発は、マラリアとの戦いにとって強力な武器である可能性が示された。
関連記事1に書きましたが、マラリアは世界で100カ国以上にみられ、年間3~5億人の罹患者と150~270万人の死亡者があるとされ、この大部分はサハラ以南アフリカにおける5歳未満の小児だそうです。
マラリアに対して現在も苦戦している主な原因は、抗マラリア薬耐性菌(原虫)と抗殺虫薬耐性蚊の出現だそうです。特に、新しい殺虫薬開発の見込みがないのは大きな問題だそうです。蚊の成虫に感染する真菌は本論文のように、マラリアに対する新しい武器として注目されています。以下にその優れた点をまとめておきます。
1.M. anisopliaeの胞子は、通常数ヶ月間は安定で、蚊の成虫の表皮から感染できるので、殺虫剤と同じように散布することができができる。
2.M. anisopliaeは200種類以上の昆虫、特に多くの種類の蚊に感染できるので、トランスジェニック蚊よりも高い予防効果が期待できる。デング熱媒介蚊にも有効。
3.蚊に対する病原性は、トランスジェニック菌も野生型も同じ程度なので、耐性蚊が出現しにくい。
4.トランスジェニック蚊と異なり、殺虫剤と同時に使用できる。
5.感染しても、昆虫以外には害がないと思われる。
また、M. anisopliaeは病原体特異性を決定する1本鎖遺伝子組換え抗体を効率よく発現できるので、マラリア以外の多くの昆虫媒介疾患についても、この真菌が強力な武器になることが期待されています。カビを武器にするという発想が新鮮です。関連記事2で紹介した遺伝子組換え蚊よりも優れた戦術だと思います。
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