腫瘍に浸潤するT細胞は、RANKL–RANKシグナル伝達を介して乳がんの転移を促進する

Tumour-infiltrating regulatory T cells stimulate mammary cancer metastasis through RANKL–RANK signalling

以下は、論文要約の抜粋です。


炎症や感染が原因ではないがんにおいても、炎症は腫瘍発生や転移に影響する。例えば、前立腺がんの転移は、進行した腫瘍へのリンパ球の浸潤とTNFファミリーに属する2つの因子、RANKL(receptor activator of nuclear factor-κB[RANK] ligand)とリンフォトキシンの発現上昇と関連がある。

しかし、転移におけるRANKLの役割は確立されていない。RANKLとその受容体であるRANKは、タンパク質リン酸化酵素IKK-αを介して妊娠中の乳腺胞小葉細胞の増殖を制御する。

我々は、RANKL、RANKおよびIKK-αが乳がんの転移にも関与するかどうかを検討した。その結果、ヒトの転移性乳がんで増幅が見られるErbb2がん遺伝子(別名Neu)を過剰発現する乳がん細胞におけるRANKシグナル伝達は、肺転移に重要だった。

Erbb2によって形質転換したがん細胞の転移には、RANKLを産生するCD4+CD25+ T細胞も必要だった。RANKL産生T細胞の大部分は、調節性T細胞によって産生されるFOXP3転写因子を発現し、マウスやヒトの乳がんでは平滑筋アクチンを発現する間質細胞の近くに存在していた。

肺転移のT細胞に対する依存性は、RANKL投与によって代替が可能で、RANKLの投与はRANKを発現するヒト乳がん細胞の肺転移も促進した。

これらの結果は、腫瘍に浸潤するCD4+ T細胞やFOXP3+ T細胞がヒト乳がんの予後に悪影響を与えることと一致しており、RANKL–RANKを分子標的とする治療が乳がんの再発性転移を予防できることを示唆している。


関連記事に書いたように、DenosumabはRANKLと特異的に結合し、その機能を阻害する完全ヒトモノクローナル抗体です。生体に投与されると、骨芽細胞などが発現するRANKLと破骨細胞前駆細胞上に存在するRANKとの結合に拮抗し、前駆細胞が破骨細胞へと分化するのを阻害します。

このためDenosumabは、閉経後女性の骨粗鬆症および前立腺癌患者のホルモン遮断療法による骨量減少により骨折のリスクが上昇した場合の治療薬として、ヨーロッパおよびアメリカで承認されています(商品名:Prolia)。また、昨年11月にはFDAから、骨転移を伴う固形がん患者の骨関連事象の抑制目的での承認も受けました。

このように、RANKL–RANKシグナル伝達拮抗薬は既に商品化されています。半年に1回、60mgを皮下注射により投与します。60mgが825ドルというのは確かに高価ですが、なぜMichael Karinがこの実験にDenosumabを使わなかったのかがとても不思議です。Denosumabの進行前立腺癌骨イベント抑制効果はビスホスホネート剤のゾレドロン酸に勝るという報告もあるので、本当に転移に効いているのかもしれません。

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Denosumab(抗RANKL完全ヒトモノクローナル抗体)が欧米で骨粗鬆症の治療薬として承認
Prolia (InPharmより)

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