髄液がクモ膜顆粒で排泄されるというのは誤り: 末梢神経周囲の空間を経て組織液として排泄

先日のプリオン:空気感染は「非常な少量でも致死」?の記事に対するコメントで、素晴らしいものがあったので紹介します。


脳室の脈絡叢で産生された髄液は,クモ膜顆粒で吸収(排泄)されると,どんな教科書にも書いてありますが,どうもこれは間違っているようです。そもそもクモ膜顆粒がない動物種はたくさんありますし,クモ膜顆粒は加齢とともに出現します。クモ膜顆粒で髄液が吸収されるという根拠は概して乏しいのです。

一方,嗅神経を含めて末梢神経系を覆う神経周膜は,クモ膜に連続します。つまり末梢神経の周囲の空間は,クモ膜下腔と連続しています。クモ膜下腔中の髄液は,この末梢神経の周囲の空間を経て,その末端で組織液として排泄されると考えられます。(以上、神崎さん)

この脳脊髄液の産生と吸収に関する定説は1914年のWeedの説ですが,どうも根拠が乏しいようです。しかし,ことが髄液の産生と吸収のメカニズムですから,脳疾患の治療の根本に関係していますので,もしこの説が誤りであるならばたいへんなことです。

この他,髄液の排泄路としては血管やリンパ路も考える必要があり,クモ膜顆粒だけに排泄路を求めるのは危険です。また嗅神経ばかりではなく,末梢神経を覆う神経周膜は,やはりクモ膜に連続することより,末梢神経内の空間はクモ膜下腔と連続するから,やはり髄液の排泄路になりうるのです。

例えば最近,話題となっている交通事故後の髄液減少症なども,ひょっとすると,末梢神経根におけるクモ膜と神経周膜との連続部位からの髄液の漏れかも知れません。交通事故後の髄液減少症の患者さんが,事故と髄液異常との因果関係を証明できず,補償の問題等で苦労していますが,髄液排泄に関するドグマ(?)が解決を阻害しているのかも知れません。

Weed が脳外科医として余りに有名なCushing の弟子のせいか,クモ膜顆粒が髄液を吸収し静脈洞に排泄するという彼の説は,定説として教科書のあちこちに残っています(というか,それしかない・・・)。しかし,そのために脳圧の異常や髄液減少症の患者さんの病態の真の理解が妨げられている可能性があります。病態を正しく説明できなければ,その治療は行き当たりばったりの当座しのぎになってしまいます。

やはり教科書の記載の全てを疑うという基本的な態度が大事ではないでしょうか。もっとも全てを疑うことを理由に勉強しないことを正当化するのは間違っていますが(以上、駒さん)


私は、講義の初めと終わりに「薬理学は解剖学とちがって、学生の時に学んだ知識の大半は、君たちが医者をやる時には古くなってしまう。だから薬のことはずっと勉強し続けないといけない」などと言うのですが、間違っていました。解剖の知識も変わるのですね。

関連論文
1. Lymphatic cerebrospinal fluid absorption pathways in neonatal sheep revealed by subarachnoid injection of Microfil.
2. The importance of lymphatics in cerebrospinal fluid transport.

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