以下は、記事の抜粋です。論文の内容にそって一部修正しています。
Nature Neuroscience誌(電子版)に掲載された論文によると、マギル大の研究チームは「音楽を聴くと背筋がゾクッとするような興奮を感じる人」との条件で、研究の被験者を募集。応募者217人の中から19~24歳の8人を選び、PETによる画像診断によって、ドーパミン受容体と結合する化学物質ラクロプライドの量を調べた。被験者の心拍数、呼吸、体温、皮膚コンダクタンスなども測定した。
その結果、好きな音楽を聴いてワクワクしているとき、被験者の身体活動は活発化し、脳内の線条体からドーパミンが分泌されることが分かった。この反応は、好きな音楽を聴く前の期待感だけでも起こることも確認された。
一方、聴いても気分が盛り上がらない特に好きではない音楽を聴いた場合には、ドーパミンの分泌の活性化は見られなかった。
研究チームはさらに、脳内のどの部分が活性化するかを調べるため、fMRIによる検査を実施し、被験者の脳の血流量変化を調べた。すると、好きな音楽を聴くことを期待している段階では、脳の「尾状核」と呼ばれる部分が活性化することが分かった。ところが、実際に音楽を聴いて興奮状態となると、今度は「側坐核」という部分が活性化した。
ドーパミンは、おいしいものを食べたり、金銭など好ましい「二次報酬」を得たりした際に分泌される脳内物質。向精神薬の処方でも分泌され、ヒトの生存本能と深い関係があると考えられている。
しかし、音楽は抽象的なもので、必ずしも生存に不可欠ではなく、また「二次報酬」的なものでもない。この点について研究チームは、音楽によって喚起される「高揚感」「緊張」「予感」「驚き」「期待」などの感情が関与している可能性を挙げている。
元論文のタイトルは、”Anatomically distinct dopamine release during anticipation and experience of peak emotion to music”です(論文をみる)。
ドーパミンの放出は、 [11C]racloprideというリガンドを用いたPET (positron emission tomography)によって調べています。racloprideはドーパミンの(D2)受容体と結合しますが、特定部位でドーパミンの放出があると、受容体に結合したracloprideと拮抗するためにその部位での[11C]raclopride量の低下が認められるというのがその測定原理です。
このPET実験で、若者たちが良い気持ちで音楽を聴いている時には、脳の線条体という部位で[11C]racloprideの結合低下が認められ、ドーパミン放出が亢進していることが明らかになりました。また、論文によるとこの減少は側坐核でも認められるので、ここでもドーパミンの放出がおこると考えられます。
PETでは、短い時間での変化をとらえられないので、研究者らはPET実験と平行してfMRIを用いたBOLD(blood oxygenation level)法による血流測定実験を行いました。このような2つの方法の組み合わせによって、音楽を期待するときには尾状核、実際に聴いている時には側坐核が興奮していることが明らかになったそうです。
好きな音楽を聴いて気分が良くなる理由がわかったような気がします。しかし、D2受容体ブロッカーを服用するとこのような快感は消えてしまうのでしょうか?
Woman playing electric guitar in sitting room(NewsFeedより)
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