唾液がPCR検査の検体として使用可能に 利点と欠点
以下は、記事の抜粋です。
6月2日より検体として唾液を用いたPCR検査が可能となりました。ただし全てが唾液に取って代わるわけではなく「症状発症から9日以内の者」に限り、唾液を用いたPCR検査が可能とのことです。唾液を用いたPCR検査の有用性、メリットとデメリットについて整理しました。
検体としての唾液の研究がいくつか報告されました。唾液と気管内吸引痰との経時的な比較(Lancet Infect Dis 2020; 20: 565-74)こちらは気管内吸引痰との比較の図です。青が唾液、赤が気管内吸引痰で、縦軸がウイルス量です。
新型コロナウイルスは下気道(気管、気管支、肺)でウイルス量が多いため、気管内吸引痰と比較するとウイルス量は少ないですが、唾液でも20日くらいまでは10の4乗コピー/mlくらいの量が検出されています。
では従来よく検体として用いられていた鼻咽頭スワブと比較するとどうでしょうか。唾液と鼻咽頭スワブとの経時的な比較(doi:10.1128/JCM.00776-20)。これは先程の図と縦軸が違ってややトリッキーですが、Ct値という増幅サイクル回数を見ているので、Ct値の数が少ない方がウイルス量が多いことになります(要するにさきほどの図と縦軸が逆になります)。ですので、唾液よりも鼻咽頭スワブの方がウイルス量が多いということになります。
唾液の方がウイルス量が少ないということは、鼻咽頭スワブを用いてPCR検査を行えば陽性と判定される人も、唾液を用いれば陰性と判定されることがあり得るということです。これが唾液をPCR検査の検体に用いる最大の欠点と言えるでしょう。
つまりこれまで以上に唾液では「PCR検査が陰性だからといって新型コロナではないとは言い切れない」ということになります。
今回、厚生労働省が「症状発症から9日以内の者」に限り保険適用となっていますが、これは自衛隊中央病院で行われた研究結果によるものとのことです。この研究は、鼻咽頭スワブを用いたPCR検査が陽性であった症例の唾液を採取し、PCR検査の陽性率を検討したものです。
図のように、発症から10日以降は陽性率が低下しています。このことから唾液を用いる際は「発症9日目以内」に限定し保険適用とされたようです。
インフルエンザの迅速検査などで鼻咽頭の粘液を採取されたことがある方はお分かりかと思いますが、かなり辛いです。また、医療従事者側も検査する際に直接咳やクシャミなどのしぶきを浴びる可能性があり、感染に繋がりうるため、感染対策に注意が必要となります。
かし、唾液であれば受診者ご自身で検体を採取することができますので、医療従事者にとっては感染のリスクも軽減されますし、毎回個人防護具を着る負担も軽減され、また暑さ対策にもなるでしょう。つまり、唾液を用いたPCR検査を行う場合には医療従事者は毎回個人防護具を着る必要がなくなるわけです。これは正直めちゃありがたいです。
というわけで、受診者と医療従事者にとってメリットも大きい唾液PCR検査ですが、鼻咽頭スワブを用いた場合と比べると検出率が低下する可能性もあるので、発症からの日数などの条件も考慮し、メリットとデメリットを理解した上で使い分ける必要があるでしょう。
なお、しっかりと良質な痰が出せる方は、一般的に痰の方が唾液や鼻咽頭よりもウイルス量も多いので、痰を用いた方が良いかもしれません。その場合、検査を受ける前に「痰が出ます」と自己申告するようにしましょう。
上のグラフだと、1メモリが10の2乗なので、気管内吸引痰と唾液では、ウイルス量では100倍弱の違いになります。下の鼻咽頭スワブとの比較グラフでは、1メモリが10サイクルなので、2の6乗=64~7乗=128倍の違いです。確かにかなり少ないです。
要するに、唾液を用いた新型コロナウイルスのPCR検査は受診者にとっては楽、医療従事者にとっては安全で楽だが感度が低いということです。「陰性の証明」には使えないと思います。
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