Prescription Drugs Associated with Reports of Violence Towards Others
以下は、論文要約の抜粋です。
背景:薬物の副作用による他者への暴力については、傷害の危険があるのは服薬者自身ではないという特殊性のためか、これまでほとんど調べられていない。
目的:他者に対する暴力行為についての見解や事実を記載した報告の中から、薬物との関連がありそうなものを探し出してその関連の強さを評価する。
方法:FDAの副作用報告(Adverse Event Reporting System, AERS)の中から、2004年から2009年までの間に200件以上の重篤な副作用報告のある薬物を選んだ。その中から、殺人、殺人念慮、身体的暴行、身体的虐待、その他暴力に関連する症状を選んだ。偶然の暴力と思われるものは除外した。
結果:31種類の薬物について、1527の暴力例が薬物の投与と関連すると判断された。最も暴力と関連すると思われる薬物は、禁煙補助薬のバレニクリン(varenicline)、11の抗うつ薬、 6の鎮静薬・睡眠薬、そして3のADHD (attention deficit hyperactivity disorder)治療薬である。抗精神病薬の暴力との関連性は弱く、抗痙攣約・情緒安定薬については1つの薬物以外は関連性はなかった。調べた484種の薬物中435種(84.7%) については、暴力行為との関連がないと判断された。
結論:他者に対する暴力行為は、比較的少数の薬物に認められる本物の重大な薬物副作用である。ドーパミンを放出させるバレニクリン、セロトニンに作用する抗うつ薬は最も強く一貫して暴力行為と関連する。これらの作用を確認するためには前向き臨床研究が必要である。
以下は、上記論文を紹介した日本語記事です。リンクだけにとどめておきます。
人を暴力的にする合法的だが危険な薬物トップ5
ファイザーの禁煙補助薬バレニクリン(商品名:チャンピックス)は、昨年10月のたばこ税増税で禁煙にチャレンジする新規患者が急増したため在庫が不足し、一時出荷停止になっていました。本年1月初旬から供給が再開され、新規患者への治療が再開できるようになったばかりです。
バレニクリンは、ニコチン受容体の部分アゴニストで、シナプスの末端からニコチン自身よりも軽度にドパミンを放出させます。これによって、ニコチン渇望感が減じ、タバコを我慢しやすくなります。また、バレニクリンはニコチンよりも半減期がはるかに長く(約24時間)、タバコを吸った時におこるはずのニコチンによるドーパミン放出が抑制され、陶酔感・満足感が減少します。
このように、素晴らしい禁煙補助薬だと思っていたのですが、他の一般的な薬と比べて18倍暴力的になるというのには驚きました。一方、ニコチンにはこのような暴力的になる副作用はないようです。
また、フロキセチン(日本未承認)、パロキセチン(商品名:パキシル)、フルボキサミン(商品名:ルボックス)などのSSRI (Selective Serotonin Reuptake Inhibitors)をはじめとして、すべての抗うつ剤が上位に入っています。
また、トリアゾラム(商品名:ハルシオン)、ゾルピデム(商品名:マイスリー)、エスゾピクロン(日本未承認)、ジアゼパム(商品名:セルシン)などの睡眠薬・抗不安薬も結構上位に入っています。ベンゾジアゼピン系薬物と類似薬物には、不安感や焦燥感を取り除くために服用したはずなのに、逆に興奮しやすく、攻撃的な行動をとったりする奇異反応とよばれる副作用がありますが、関連があるのかもしれません。
しかし、これらの薬物はもともと不安定な精神状態に対して投与されるので、薬物ではなくもともとの病気によって暴力行為がおこった可能性があります。確認するためには、論文に書かれているように前向きの臨床試験が必要だと思います。
暴力行為に関連する薬物ランキング(PLoS ONEより)
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