Reducing the Gender Achievement Gap in College Science: A Classroom Study of Values Affirmation
以下は、論文要約の抜粋です。
多くの理数系の科学分野では、女子学生は男子学生より数が少ないうえ、試験の平均成績が低く、将来の成功が危ぶまれている。
本研究では、成績の性差を低減するために、大学レベルでの物理学入門クラスの受講者を対象として、「自己価値肯定法」と呼ばれる、文章作成にもとづく心理学的介入の効果を調べた。
ランダム化二重盲検試験の結果、個人が最も重要とする価値観について文章作成した群では女子学生の成績が向上し、コントロール群と比較して、試験成績における性差が減少した。
介入の効果は、理数系の能力が男子と比べて劣っていると強く信じていた女子学生において顕著だった。このように、簡単な心理学的介入は、理数系の学習におけるジェンダー・ギャップを改善する有効な方法である。
アメリカでは、STEM (science, technology, engineering, mathematics)とよばれる分野において、女性の進出が少ないことが問題視されています。実際、2006年に物理学でPh.D.を取得した女性の割合は28%、数学では25%、工学では20%でした。その結果、これらSTEM関連の職業に従事する女性も少ないそうです。この傾向は、アメリカだけではなく世界的な問題だとされています。
本研究で示されたように、簡単な文章作成課題によって、女子学生の物理学入門クラスでの試験成績が向上したことから、心理学的介入によって大学の理数科学教育における性差が低減する可能性があると著者らは主張しています。
さらに、女性に対して否定的な固定観念をもつ女子学生に対して特に効果があったことから、理数系科目で男女差があるという先入観に起因する不安などの心理的脅威が、女子学生の物理学の試験成績に深く影響を及ぼしていると著者らは推論しています。
「自己価値肯定法」と呼ばれる文章作成課題は、学期開始時期に2度(1週目と1回目の中間試験直前の4週目)、個人が最も重要とする価値観(たとえば、友人や家族など)について、15分ほど文章を書く課題を課し、残りの学生(コントロール群)には、自分にとってはそれほど重要でない価値観が、なぜ他の人にとっては重要かもしれないのかについて書く課題を課しました。この比較試験の結果から、上記のような結論が得られました。
この心理学的介入の効果は、当該クラスでの試験結果だけでなく、授業と直接関係のない物理学の基礎概念に関する試験においても効果がありました。自信が自信を呼んだということで、今回実証された自己価値肯定法の効果は、一時的なものではないだろうと思われます。
この論文では、アメリカの女性進出はまだまだのように書かれていますが、アメリカでは大学教育を受けた女性の80%が労働力化しており、労働力全体のほぼ半数を女性が占めています。男女間の賃金格差も日本よりもはるかに改善されています。
また、以前は、男性中心の医師会や教授会などがその既得権益を守るために、医学部の入学者選考に圧力をかけたこともありましたが、現在では有名大学の医学部でも男女比はほぼ同じ、医師全体での比率もほぼ男女が同数に近づいています。それでも、大企業のCEOと同様、医師会会長や医学部長の男女比は、圧倒的に男性に偏っているのでまだまだ性差の問題は大きいとされています。
神戸大学の医学部医学科では女性比率が約30%です。これを東大や阪大と比べて高すぎると評価し、理数系の入試科目の配点比重を増やして、女子学生を排除しようなどと考えている人はまさかいないと思うけど。
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